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北海道新聞が警察に屈した日

最終更新時間:2006年02月22日 19時57分44秒

北海道新聞が警察に屈した日

平成18年2月16日

「明るい警察を実現する全国ネットワーク」                                    原 田 宏 二


平成18年2月1日 「道新」朝刊に「北海道新聞社の編集局長ら処分」という見出しのベタ記事が載った。

北海道新聞は31日、道警と函館税関による「泳がせ捜査失敗疑惑」を報じた記事をめぐって1月14日に「おわび」を掲載した問題で新蔵博雅常務・編集局長を減給するなど合わせて7人の処分を決めた。編集局長以外は、当時の報道本部長と外勤担当が減給、紙面化に携わった当時の報道本部次長、記者3人が譴責、当時の編集本部員1人を戒告とした。

平成16年2月10日、私は、記者会見で道警の裏金システムを告発した。それをきっかけに警察の裏金疑惑は全国に波及した。

道警は組織的な裏金つくりを認めたが、3億9000万円もの使途不明金など疑惑の肝心な部分を明らかにしないまま、返せばいいのだろうと言わんばかりに9億6272万円を返還し幕引きを図った。

疑惑の真相解明を求めて北海道新聞の取材班は実にこれまでに1400本以上の記事を書いた。

取材班の彼らは、JCJ(日本ジャーナリスト会議)大賞、新聞協会賞、菊池寛賞、新聞労連ジャーナリスト大賞と大きな賞を総なめにした。

取材班は、道警にとって天敵となった。

「道新」で報道された一連の道警裏金報道の記事を書いたのは、今回処分された当時の編集局報道本部の次長以下の現場の記者たちである。

北海道新聞に守られるべき彼らが、何故処分されなければならないのか。そこには、一連の道警の裏金報道をめぐる道警とのバトルとそれに屈したとしか思えない北海道海道新聞上層部の不可解な対応がある。


平成18年1月14日「道新」第2社会面に「『泳がせ捜査』記事の社内調査報告」なる記事が載った。そして、「裏づけ取材不足」、「『組織的捜査』確証得られず」という見出しも目に入った。

「泳がせ捜査失敗疑惑」記事とは、平成17年3月13日の「道新」朝刊の記事のことである。

内容は、「道警の銃器対策課と函館税関が平成12年4月ころ、(けん銃摘発を目的とした)泳がせ捜査に失敗し、香港から石狩湾新港に密輸された覚せい剤130キロと大麻2トンを押収できなかった疑いがある」とするものだった。

この「泳がせ捜査」については、平成17年3月10日発売の拙書「警察内部告発者」の中でも触れた。だからこの記事は私にも無関係ではなかった。

ここで平成の刀狩と稲葉事件について説明する必要がある。

平成4年、警察庁は全国の警察にけん銃の摘発を徹底するように大号令をかけた。平成の刀狩である。平成7年には国松警察庁長官がけん銃で狙撃されるやそれはピークに達し、平成14年稲葉元警部の逮捕をもって終わりを告げた。

この間、けん銃摘発のノルマに追われた都道府県警察は、けん銃の所持者を秘匿してけん銃だけを押収するという「首なしけん銃」の摘発や捜査員がヤクザからけん銃を買うといった違法な捜査に血道をあげた。

その結果、長崎、愛媛、群馬、兵庫などで、けん銃摘発を巡る違法捜査が発覚した。それはおそらく氷山の一角であったろう。北海道警察も例外ではなかった。稲葉元警部は、道警の銃器対策課のエースともてはやされ、道警のけん銃摘発の実績を背負っていた。彼が所属する銃器対策課では、捜査費が裏金に回されていた。捜査協力者の運用資金に窮した彼は、覚せい剤密売に手を染めるうち自らも使うようになり逮捕された。彼は実刑判決を受け服役中である。

稲葉元警部は、自らの裁判で銃器対策課のけん銃摘発をめぐる数々の違法捜査について証言した。「130キロの覚せい剤の密輸」は、覚せい剤などの密輸を何回か見逃し、最後にはけん銃を摘発するといった違法捜査である。

当時の上原道警本部長は、稲葉元警部の証言について道議会で「そのような事実は把握されなかった」と否定した。

彼はこのけん銃摘発を目的とした「泳がせ捜査」については、平成15年3月3日付で札幌地裁に提出した「上申書」でも詳細に述べた。

自らの罪を認め服役している稲葉には、虚偽の事実を公表する動機がない。私は、稲葉の話は本当だろうと思った。

この問題については、私だけではなく、平成16年に「北海道警察の冷たい夏」の著者である曾我部司氏が「北海道警が闇に葬った大スキャンダル」(月刊現代04年9月号)でも明らかにしている。同氏は、このやらせ捜査の実態を広範囲な現地取材により裏付けたと語っている。その曾我部氏も「闇に葬った」と指摘していのだ。

今となっては、証拠をもってこの事実を裏付けることは極めて至難なことではある。だからといって「泳がせ捜査の失敗」が事実無根であったとは思えない。事実無根を主張・立証する責任は道警側にある。


北海道新聞はどうして「おわび記事」などを掲載したのだろうか。

その記事について北海道新聞の新蔵博雅編集局長はこうコメントしている。「社内調査の結果、全体として説得材料が足りず不適切なものであったとの結論に達しました。疑いを裏付ける続報を展開し得なかった力不足についても率直に反省しています」

そもそも、1年近く前の「道新」の記事について、当の北海道新聞が今になって「おわび記事」を載せなければならなかったのか、理解できる読者はいないだろう。

道警が銃器対策課の数々の違法捜査をヤミに葬り、ロシア人船員のけん銃不法所持事件めぐる捜査員による組織的な偽証事件の発覚に見られるように、偽証をしてまでも違法捜査を隠蔽しようとするのが道警のやり方であった。

「覚せい剤130キロの事件密輸事件」などをいまさら道警が事実を認めることなどはありえない。

当時の捜査員は口をつぐみ、証拠となる覚せい剤などは散逸している。ヤミからヤミへ葬られたのだ。

新蔵編集局長のコメントに「説得材料が足りず不適切」とあるが、どんな説得材料を集めることができるのかを具体的に明らかにするべきであろう。

この記事を取材した記者たちは、長い間の取材を経て合理的に判断して、真実だと確信して記事にしたと聞いている。編集局長はじめ上層部もそれを知っていたはずだ。

この「おわび記事」は何のために掲載されたのか。北海道新聞は誰におわびしたのか。読者ではない。どう読んでもおわびの相手は道警だろう。

権力機関をチエックすることもその使命であると自負する新聞が、警察におわびするのはいったいどういうことなのか。

北海道新聞は、「おわび記事」よりも、道警がヤミに葬ったけん銃摘発をめぐる数々の違法捜査を自らのペンで暴きだし、その実態を道民の前に明らかにするのが先決ではないのか。

私には、不可解なことばかりであった。


私なりに調べてみるといろいろな事情が分かってきた。

まず、一連の道警の裏金疑惑の記事を書いた取材班が事実上解体されていたことが分かった。

平成17年3月以降から7月にかけて、道警の裏金疑惑を追及で取材班を引っ張っていた報道本部次長をはじめ道警担当のキャップ、サブキャップなど主要なメンバーが1人またひとりと異動になる。しかも,異動先は、札幌の本社から遠く離れた東京支社である。

私は、このときの北海道新聞の人事異動について不審に思った。本人たちの希望もあってのことだろうが、5月末に道監査委員の確認監査結果が判明したとはいえ、まだ、道警の裏金疑惑の全貌が解明されてはいない段階でどうしてだ。

これで「取材班」は事実上骨抜き状態になった。7月以降、「道新」の道警裏金疑惑の記事は激減した。北海道新聞も、裏金報道から手を引こうとしているのか。


実は、伏線があった。道警の裏金疑惑追及していた北海道新聞の内部ではとんでもないことが起きていたのだ。

平成16年5月27日、道新室蘭支社営業部次長(55歳)が、広告の売り上金約6000万円を着服していたことが発覚し、道警の捜査4課等に逮捕されたのだ。

この次長は、暴力団との関係も取りざたされ、広告売り上金による裏金つくりが社内の“公然の秘密”となっていたのではないかと推測される報道もあった。この件では、北海道新聞の菊池育夫社長も取調べを受けたという。

この次長は、平成17年3月札幌地裁で懲役4年の実刑判決を受けた。

北海道新聞の金をめぐる不祥事はこれだけでは終わらなかった。

平成17年10月、北海道新聞は「今年6月に退職した東京支社元広告部長が営業広告費約500万円を私的に流用し、飲食費などに当てていた。元部長は弁済の意思があり、刑事告訴はしない」と発表した。あるマスコミ関係者によると、北海道新聞では、外部に迷惑をかけた事件でなく、本人が弁済を約束したので、あえて公表する必要がないと判断していたが、マスコミ他社の取材があったため、あわてて公表したという。これは、幹部の不祥事を隠蔽したといわれても仕方がない対応であった。    北海道新聞の不手際はまだ続いた。

この事件は5月に流用の事実が発覚し内部で調査したところ、部長も事実を認め依願退職したため、退職金2000万円を渡し、流用した500万円の穴埋めをさせていたことが判明した。

こうした北海道新聞の内部処理のやり方は、本来、刑事事件となる可能性のある事件を刑事告発することなく内々に不問に付し、懲戒免職にすべき事件を依願退職にして退職金も支払うなどあいまいな形で処理した、と指摘されても仕方がない。

本来支払うべきではない退職金を支払うことは、北海道新聞新上層部による特別背任罪の疑いも出てくる。あわてた、菊池育夫社長ら11人の役員がこの2000万円を負担することになったという。

連続する北海道新聞幹部の金にまつわる不祥事と北海道新聞上層部の不手際を道警が見逃すはずはなかった。


「泳がせ捜査」の記事と、北海道新聞の広告費をめぐる一連の問題が、どのようにリンクしていったのか。マスコミ各社の報道と北海道新聞の内部資料などを元に、検証してみた。

北海道新聞の取材班の記者たちには、一連の道警裏金疑惑の取材を続ける中で、それ以外の一般の取材活動で道警からのいろいろな形の嫌がらせや差別的な扱いを受けていたという。

北海道新聞の取材班の一連の裏金報道の記事については、その都度、道警から多くの抗議がなされていた。

「泳がせ捜査失敗」の記事も3月下旬以降、道警から「事実無根」の抗議が繰り返され、北海道新聞はその都度、文書で「問題はない」と回答していた。これらの回答はその都度編集局幹部の了解を得た上で行なわれていた。

その上で、北海道新聞としては「もし、道警が訴訟を起こしてきたら、そのときは受けて立つ」ということが共通の認識となっていた。

ところが、平成17年9月になると編集局幹部の間から「取材現場も困っている。年内には決着したい。道警への謝罪、あるいは、紙面で『おわび』するかどちらかではないか」という趣旨の意向が漏れ始めた。

更に、編集局幹部から、「道警が『裏金報道は書かれても仕方がないが、泳がせ捜査は事実無根。この記事で北海道新聞がけじめを付ければ、関係を正常に戻す』と言っている」旨の話もあったという。

10月に入ると情勢は緊迫度を増してきた。「道警の提訴が近い」という話が編集局内で出はじめ、「調査委員会を作る」という話が浮上する。

取材班メンバーは、会社側の方針が「調査委員会の調査内容を道警に伝える」とのことだったため、「この記事の情報源は複数の現職警察官であり、道警に調査内容を伝えると情報源が特定される。『正常化』を優先するあまり、報道機関としての役割を放棄することになりかねない。」などと反対した。

「調査委員会」の設立は見送られたが、編集局に調査チームができた。北海道新聞は道警に対して「調査に着手した」と連絡した。

このことは、11月10日付の毎日新聞が次のように報道したことで判る。

北海道警の不正経理問題や稲葉圭昭元警部(服役中)の不祥事に関連した北海道新聞社の一連の報道を巡り,道警と道警元総務部長佐々木友善氏(61歳)に「ねつ造された記事がある」と指摘された同社は内部調査に着手していることが9日分かった。同社は取材した記者らに事情を聴き、12月上旬をめどに調査結果をまとめる見込み。

私は、この記事を読んで不思議に思った。

何故、道警の裏金疑惑が発覚した当時の道警のナンバー2で、道警本部長とともに道警の信用を失墜させた張本人ともいえる佐々木氏が登場するのだろうか。しかも彼は既にOBである。

彼がやらなければならないのは、私がやったのと同じ道民に対する謝罪のはずである。


11月になると、調査チームによる取材班のメンバーに対するヒヤリングが始まる。

取材班に対するヒヤリングは1人1回ずつ行なわれたが、ほぼ全員が取材経緯の個別質問には応じていない。ヒヤリングでは、取材源だった複数の道警現職捜査員の属性、暴力団関係者の氏名などの明かすように求められたが、「情報は社内にとどめ、道警など外部には一切、漏らさないという保証がない」との理由で答えていない。

彼らは、ヒヤリングの席で「社内のみの完全に閉じられた作業なら、社員として当然、取材経過をきちんと話す。それは社員としては当たり前だ」と再三伝えているという。

平成17年12月20日、私のところへ北海道新聞の編集局幹部から「泳がせ捜査関連の問い合わせについて」と題するメールが来た。

当初、この幹部からは会って話を聞きたいということだったが、口頭で話したことがどのように受け取れとられるか不安であったので断っていたのだ。

問い合わせの内容は、私の著書『警察内部告発者』の記述をについて、稲葉元警部の上申書や文章を読んでどのように感じたか、聞かせて欲しいということだった。

私は、なんと意味のないことを聞いて来るものだとバカバカしかったが回答した。(以下原文のまま)

私は、それまでの在職中の体験から、稲葉事件については、道警は稲葉個人の犯罪にして上層部の関与は絶対に明らかにしない、と確信していました。マスコミもその線で報道しましたね。検察の捜査もその線で終わるだろうと思いました。小樽事件(けん銃摘発事件の偽証事件)の対応や検察の冒頭陳述はその現れでした。警察も検察も組織防衛最優先の捜査に終始しました。だから、稲葉の証人になり,けん銃捜査の情報管理や捜査費の実態を事件の背景として証言しようと思ったのです。

稲葉は、最初は全て自分の腹に納めて終わりにしようと思っていました。2人(稲葉の上司と協力者)の死を知り考えが変わりました。自分の責任は認めるが、道警はその非を認めてやり直して欲しいと考えていました。道警はそれを無視しました。

130キロの話は本当だと思います。曾我部レポートにもありますし、稲葉にはこれを暴露して何の利益もありませんでした。それに、彼は公判でも肝心なとことはまだ隠しています。

その後、彼が私にこのことを話したときには、私はまだ本を書くことは決めていませんでした。無論私のほうから彼に聞いたわけでもありません。そして彼は、これが本に出るとは知りませんでした。彼は、私にでたらめを話す理由はありません。

余計なことですが、道警と同じような対応をされることのないようにお祈りします。

以上


 私は、この道警と北海道新聞のバトルを見ていて、元朝日新聞編集委員の落合博実氏の「朝日新聞が警察に屈した日」(平成17年10月 文芸春秋)を思い出した。

 昭和55年、朝日新聞編集局社会部あてに1通の封書が届いた。愛知県警の中堅幹部からの組織的な裏金つくりの内部告発だった。

落合氏は、本人と面会しB5版の金銭出納簿を渡される。愛知県警の組織的な裏金つくりの実態が克明に記された裏帳簿だった。

 取材の最終段階になり編集局からストップがかかる。落合氏は、強く抗議した。

 次長のストップの理由はこうだった。

 「警察にはいろいろ借りがあってなあ。」

「東京国際女子マラソンでは交通規制などで警視庁の世話になっているし、販売店の不祥事も多くてね」

記事にすることを断念せざるをえなかった落合氏は語る。記者人生における痛恨事であり、朝日新聞社が行なった、読者に対する裏切り行為である。

落合氏の執念が実ったのは、16年後の平成8年8月26日であった。

「朝日」朝刊1面に「会計検査院愛知県警に立ち入り検査へ」社会面に「カラ出張で裏金念1000万円、ゴルフ代やせんべつに」という記事が掲載された。

落合氏は、こう指摘している。(朝日新聞の)警察に対する弱腰は、現在に至ってもまるで変わっていない。実際、道警の裏金追及でも、朝日新聞は及び腰に終始した。


平成18年1月14日の道新の「おわび記事」は、まさに「北海道新聞が道警に屈した日」を象徴している。

私は、北海道新聞の幹部による広告業務に関連する不祥事が短期間に2回も発覚したことは、北海道新聞にも道警と同じような裏金体質があったのではないかと強く疑わせる事実だと思う。

しかしながら、北海道新聞はそうした観点から、事実関係を徹底的に調査し読者に公表したとは聞いてはいない。

道新は、道警の裏金疑惑解明に関して、第3者機関による内部調査を道警に求めてきた。

確かに、北海道新聞は1私企業である。民間企業が金をどう使うかはとやかく言われる必要がないとでも言うのか。税金の使途に関する問題である警察の裏金問題とは違うのだとでも言うのか。

私は、新聞は社会の公器だということも聞いた事がある。

私は、長年の道新の愛読者である。

少なくても、道新は読者に対して今回の一連の措置について説明する義務があると思う。それが、できないなら残念ながら警察の裏金疑惑を追及する資格は北海道新聞にはない。


今回の問題に関する北海道新聞内部の動きに関する情報が事実なら、平成17年10月に発覚した東京支社の元広告部長の不祥事とその処理をめぐる北海道新聞の上層部の対応の不手際が明るみに出てから、北海道新聞の道警に対する姿勢が変化したことは事実である。

そして、1月14日北海道新聞は「おわび記事」を掲載し、2月1日には関係者を処分した。まるで北海道新聞は雪崩れ現象のように崩れていった。

何があったのか。

このことについて、私のところに複数の情報が寄せられている。それは、権力機関の道警として、報道機関の北海道新聞として、の姿とはとても思えない内容である。今は、両者の名誉のためにあえてそれを公表することは避けなければならない。

しかし、今回の問題が、北海道新聞の金にまつわる不明朗な体質や隠蔽体質があらわになることを恐れた上層部が、道警と「手打ち」をするために「おわび記事」を掲載し、現場の記者たちを処分したのではないかと、読者から疑われても仕方があるまい。


こうなってくると、一連の裏金疑惑での道警のやり方と北海道新聞のやり方は酷似している。それだけではない。組織防衛のためのトカゲの尻尾きりという手段まで真似ようとしている。

道警からその弱点を突かれた北海道新聞の上層部は、道警との関係を修復すると言う名目で現場の記者たちの首を差し出すことで、上層部の延命を図ろうとしているのだ。北海道新聞の目線は読者側を向いてはいない。道警の目線が道民を見ていなかったように。

私は、北海道新聞だけではなく一連の裏金報道でメディア各社の取材に応じてきた。

なかには、その情報の出所などを絶対に内密にしてもらわないと困るような話もしている。それは、その記者が秘密を守ってくれると信じているからだ。取材源の秘匿、それはジャーナリストとしての最低限のモラルだろう。

それが、こともあろうに当事者たる道警側に伝えられるとあっては、今後、北海道新聞の記者からの取材を安心して受けることはできない。記者は信用できても北海道新聞という会社を信用はできない。

今回の問題について、北海道新聞内部でも会社の対応を疑問視する声は出ているが、それは大きな流れにはなっていないようだ。

取材班のメンバーたちも当面は当事者であるため表立った動きは控えている。この問題では中央紙は事実を伝えるだけで、記者クラブ制度の弊害など、警察とメディアの間に存在する本質的な問題を伝えようとはしていない。他のメディアもなりを潜めている。

道警は、それを良いことに道新の弱腰に一気に付け入ろうとしている。道警は「おわび記事」の内容に納得せず、「泳がせ捜査失敗記事」の削除を要求しているという。


折から、2月15日発売の北海道の月刊誌、「財界さっぽろ」が「“泳がせ捜査”道警の逆襲に道新苦境」の特集記事を「クォリティ」が「『道新VS.道警』権力とジャーナリズムの陥穽」と題する特集を掲載した。

 この月刊誌の発売に合わせるようなタイミングで元道警の総務部長の佐々木友善氏が札幌市内で記者会見を開いた。

 佐々木氏は、道警の裏金疑惑が発覚した当時の総務部長で、裏金問題を報じた道新の記事に「ねつ造があった」として個人の立場で北海道新聞に質問状を送り回答を求めている人物であることは前述した。

 この日、佐々木氏は記者会見で「(北海道新聞の)調査報告は事実に反している」などと主張したという。

 ただ、記者会見の席では、記者から「道警がないと言っていた裏金が結局あったことの責任はどう考えているのか」と質問され「今は答える立場にはない」と述べたという。

 道警は、一度弱みを見せた北海道新聞に対して攻撃を強め、2度と再び道警攻撃キャンペーンを出来ないまで叩きのめすであろう。

読者を裏切った北海道新聞は、報道機関としての地位を失い道警の御用新聞としてヤミの世界に飲み込まれて消えていくのもそう遠くはないのかもしれない。

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