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愛媛 国賠訴状

最終更新時間:2005年05月16日 20時00分13秒

愛媛県警の現役警察官である仙波敏郎さんが愛媛県警の長年にわたる裏金作りの実態を実名告発し、報復的な人事異動の処分を受けた事に対し、2005年2月10日、松山地方裁判所に愛媛県を被告として損害賠償請求の訴訟を提起いたしました。以下訴状。PDFはこちら

報復人事 第1回弁論(05/4/12)傍聴記はこちら。


訴   状

                      2005(平成17)年2月10日

松山地方裁判所 御中 

原 告    仙 波 敏 郎

  • 原告訴訟代理人の表示  別紙代理人目録記載のとおり
  • (送達場所)松山市歩行町1−2−4安部ビル2階 今川法律事務所
    • (電話)089−947−5955
    • (ファックス)089−947−8685

被 告    愛 媛 県

  • 〒790-0001 愛媛県松山市一番町4丁目4番地2 
  • 代表者知事    加 戸 守 行

原告訴訟代理人

  • 弁護士  薦  田  伸  夫
  • 弁護士  今  川  正  章
  • 弁護士  臼  井     満
  • 弁護士  奥  島  直  道
  • 弁護士  草  薙  順  一
  • 弁護士  高  田  義  之
  • 弁護士  中  尾  英  二
  • 弁護士  中  川  創  太
  • 弁護士  西  嶋  吉  光
  • 弁護士  野  垣  康  之
  • 弁護士  東     俊  一
  • 弁護士  水  口     晃
  • 弁護士  村  上  勝  也
  • 弁護士  山  口  直  樹
  • 弁護士  山  本  慎太郎
  • 弁護士  井  上  正  実
  • 弁護士  菅     陽  一
  • 弁護士  寄  井  真二郎
  • 弁護士  渡  辺  登代美
  • 弁護士  岩  淵  正  明
  • 弁護士  奥  村     回
  • 弁護士  川  本  藏  石
  • 弁護士  高  見  健次郎
  • 弁護士  出  口     勲
  • 弁護士  鳥  毛  美  範
  • 弁護士  中  村  正  紀
  • 弁護士  野  村  侃  靱
  • 弁護士  橋  本  明  夫
  • 弁護士  前  川  直  善
  • 弁護士  東  島  浩  幸
  • 弁護士  市  川  守  弘
  • 弁護士  出  口     崇
  • 弁護士  高  橋  敬  一
  • 弁護士  小野寺  信  一
  • 弁護士  十  河     弘
  • 弁護士  廣  瀬  理  夫
  • 弁護士  高  橋  敬  幸
  • 弁護士  清  水     勉
  • 弁護士  青  木  秀  樹
  • 弁護士  青  島  明  生
  • 弁護士  坂  本  義  夫
  • 弁護士  水  谷  敏  彦
  • 弁護士  島  田     広
  • 弁護士  吉  川  健  司
  • 弁護士  安  部  千  春
  • 弁護士  井  下     顕
  • 弁護士  浦  田  秀  徳
  • 弁護士  永  尾  廣  久
  • 弁護士  横  光  幸  雄
  • 弁護士  角  銅  立  身
  • 弁護士  椛  島  敏  雅
  • 弁護士  郷  田  真  樹
  • 弁護士  原  田  直  子
  • 弁護士  江  上  武  幸
  • 弁護士  溝  口  史  子
  • 弁護士  荒  牧  啓  一
  • 弁護士  高  峰     真
  • 弁護士  佐木  さくら
  • 弁護士  山  崎  あづさ
  • 弁護士  紫  藤  拓  也
  • 弁護士  小  泉  幸  雄
  • 弁護士  小  島     肇
  • 弁護士  松  浦  恭  子
  • 弁護士  前  田     豊
  • 弁護士  前  野  宗  俊
  • 弁護士  中  野  和  信
  • 弁護士  辻  本  育  子
  • 弁護士  田  邉  匡  彦
  • 弁護士  馬奈木  昭  雄
  • 弁護士  迫  田  登紀子
  • 弁護士  武  藤  糾  明
  • 弁護士  平  田  広  志
  • 弁護士  名和田  茂  生
  • 弁護士  木  梨  吉  茂
  • 弁護士  林     健一郎
  • 弁護士  廣  田  次  男

損害賠償請求事件

  • 訴訟物の価額    100万円
  • 貼用印紙額       1万円
  • 予納郵券額     4960円                    

請求の趣旨

  1. 被告は原告に対し,金100万円を支払え。
  2. 訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言を求める。


請求の原因

第1  当事者

1 原告

原告は,昭和24年2月14日,松山市において出生し,同42年4月,愛媛県警察(以下,「県警」という)の警察官として採用され,以来,後記第2,1のとおり任用された後,平成17年1月27日付で愛媛県警察本部地域課通信指令室企画主任を命じられ(以下,「本件配転命令」という),現在その職に服する現職の警察官である。

2 被告

被告は普通地方公共団体として警察事務を処理するものである(地方自治法2条2項,3項1号)。

第2  本件違法行為に至る経過

1 任用の経過

原告は次のとおり任用されてきた。

  • 昭和42年3月,松山東高校卒業
  • 同年   4月,愛媛県警察学校入学(愛媛県巡査拝命)
  • 昭和43年3月,松山西警察署(住吉交番)
  • 昭和44年4月,機動隊
  • 昭和45年4月,松山東警察署(一番町交番他)
  • 昭和47年7月,   〃  (巡査部長昇任試験1次合格《学科》)
  • 昭和47年8月,西条警察署(駐在所)
  • 昭和48年7月,  〃  (巡査部長昇任試験合格)
  • 昭和48年9月,三島警察署(巡査長昇任《港交番主任》)
  • 昭和49年4月,  〃  (巡査部長昇任)
  • 昭和50年4月,  〃  (駐在所)
  • 昭和51年4月,東予警察署(駐在所)
  • 昭和54年8月,宇和島警察署(城北交番)
  • 昭和57年8月,今治警察署(駐在所)
  • 昭和58年8月,松山東警察署(駐在所)
  • 昭和62年8月,伊予警察署(砥部交番)
  • 平成元年 4月,   〃  (駐在所)
  • 平成3年 4月,八幡浜警察署(港交番)
  • 平成8年 4月,   〃  (駐在所)
  • 平成9年 4月,松山南警察署(石井交番)
  • 平成11年2月,警察本部生活安全部地域課鉄道警察隊(第3分隊長)
  • 平成16年4月,       〃         (第2分隊長)
  • 平成17年1月27日,愛媛県警察本部生活安全部地域課通信指令室(企画主任)

2 捜査協力費領収書の作成依頼とその拒否

原告は,県警から以下のとおり捜査協力費領収書の作成依頼を受け,これを拒否した。

  • ア 昭和48年7月に巡査部長の昇任試験に合格し,同年9月に三島署(港交番主任)に巡査長に昇任して勤務するようになった際,同署の会計課長から,3人分の住所(町名のみで番地のないもの)と氏名を記載したメモを渡され,約4×10cmの領収書(ザラ紙に手書きで3000円とのみ記入されていた)に書き写すように指示された。原告が「これは何ですか。」と質問すると同課長は「組織のためだ。」と答えた。しかし,原告は,裏金作りに使われる領収証であることがわかったので,「私文書偽造になるから書きません。」と拒否した。
  • イ 昭和49年3月,同様に会計課長から領収書の作成依頼があった。同課長に「この住所氏名はどうしたのですか。」と質問すると同課長は「電話帳から抽出したものだ。」と答えた。作成を求める同課長に対して原告は「昨年9月にも断っています。私を犯罪に巻き込まないで下さい。」などと応酬してかなり激しい口論になった。同日,署長室に呼び出され,署長から「組織のためには交際費が必要なのに,君は協力しないのか。」と協力を求められた。原告は,「他のことは協力しますが,犯罪はしたくありません。」と拒否した。署長は,退職前の上司である会計課長に対しての原告の言葉が過ぎたことは注意したが,それ以上は協力を求めなかった。
  • ウ 昭和50年3月,同様に会計課長から領収書作成依頼があったが,拒否した。
  • エ 昭和51年4月に東予署(駐在所)に転勤していたが,昭和52年3月,会計課長から同様に依頼され(メモ用紙などは上記同様),拒否した。
  • オ 昭和54年7月,同様の依頼があったが,拒否した。
  • カ 昭和54年8月に宇和島署(城北交番)に転勤になっていたが,昭和55年4月,会計課員から領収書の作成を依頼され,拒否した。
  • キ 昭和62年8月に伊予警察署(砥部交番)に転勤していたが,平成元年3月,会計課員から領収証の作成を依頼され,拒否した。
  • ク 平成3年4月に八幡浜署(港交番)に転勤となっていたが,平成4年3月,会計課員から領収書の作成を依頼され,拒否した。

3 捜査協力費領収書作成拒否による不利益な取り扱い

原告は,上記2の捜査協力費領収書の作成を拒否したことにより,以下のとおり不利益な取扱を受けた。

  • ア 昭和48年10月に香川県善通寺市に所在する四国管区警察学校に入校し,同年12月に卒業したが,同校に愛媛から出向していた警備担当の警部教官から,「来年4月に警備課の作業班に来ないか」と声を掛けられていた。昭和49年12月,同教官から,「来年の人事異動で本部警備課作業班に来ないか」と電話があった際,原告が「警備は嫌いですし,捜査費の領収書は書かないけどいいですか。」と言ったところ,その教官(警部)は「そうか。この話はなかったことにするからね」と言って電話を切った。
  • イ 昭和50年4月,三島署の港交番から駐在所に転勤(転居を伴う)となったが,これは,同年3月の拒否に対する報復として行われたものであった。
  • ウ 昭和54年8月,東予署(駐在所)から宇和島署(城北交番)に転勤となったが,これは,同年7月の拒否に対する報復として行われたものであった。
  • エ 昭和55年7月,警部補昇任試験一次(学科)は合格し,二次試験(面接)の際にも試験官から「学科試験は良く出来ている。」と言われた。試験終了後,次長(今の副署長)との間で,以下のようなやり取りがあった。
    • 次長「試験はどうだった」
    • 原告「学科試験は良く出来ていると言われましたから,合格すると思っています」
    • 次長「君は通らんよ」
    • 原告「どうしてですか」
    • 次長「君は領収書書いてないだろ」
    • 原告「私は○特(マル特)ですか」(○特とは,特別対象者のことで,組織に対し批判的,反抗的な者,その他不祥事多発者等で,昇任や人事異動に特に注意を要する者のこと。誰が○特であるかは,管理職間の引継事項で,正式な規定に基づくものではない)
    • 次長「そういうことだ」
    • 原告「それでは,試験は今後も通らんですね」
    • 次長「いやいや,君が領収書さえ書けば来年の昇任試験に間に合うよ」
    • 原告「犯罪者が通って,犯罪を起こさないものが通らないということは間違っているでしょ」
    • 次長「君がトップになって変えれば良いじゃないか」
    • 原告「犯罪を犯さないとトップになれないのなら,定年まで今の巡査部長のままで良いです」
  • オ 昭和57年7月,飲酒運転者による重傷事故の取扱に関して,宇和島署長ら幹部の不正を追求したところ,同署警備課長(同郷の先輩)から,「黙って転勤してくれないか」と再三再四の依頼があり,同年8月,今治署(駐在所)への異動が発令された。
  • カ 昭和58年4月に上記オの不正に関与した交通課長が今治署交通課長に異動してきたが,同年7月,本部勤務の警視から次のように言われた。
    • 警視「交通課長から,君が今治署にいると針のむしろだから,何とかしてくださいと泣きつかれたので,すまないがこの夏の異動で替わってくれないか」
    • 原告「8月に異動すれば,小学校2年の次男は,早くも3つ学校を替わることになるのに,替わらないといけないですか」
    • 警視「君の希望する所へ異動させるから」
    • 原告「今回は希望はないですが,異動を拒否しても替えるでしょ?次の異動は私の希望を聞いてもらいますよ」と異動をやむなく了解した。
  • キ 平成元年4月,伊予署の砥部交番から駐在所に転勤となったが,これは,同年3月の拒否に対する報復として行われたものであった。

4 捜査協力費不正支出問題

  • 北海道警静岡県警福岡県警の捜査費不正支出が次々明るみに出ていたなか,平成16年3月15日,愛媛県警の中平常友総務室長は,愛媛県議会警察経済委員会において,「(愛媛県警の)会計処理は万全で,不正支出はないと確信している。」と断言し,捜査費の執行状況についても,「会計監察室(5人)が内部監査し,県の会計監査員による監査も行われている」と説明し,再調査する考えのないことを述べていた。
  • イ ところが,同年5月31日,大洲警察署の元警察職員が偽造領収書を使用した裏金作りの実態と捜査費の不正支出を告発するや,愛媛県警は急遽,大石亘総務室長を責任者とする調査班を編成し,内部調査を開始した。
  • ウ これに対しては,長年に亘り警察幹部が関与して組織的に行われてきた疑惑のある捜査費不正支出問題の解明を警察自身の内部調査に委ねたのでは,事実の全容解明は到底期待できず,証拠隠滅のおそれさえあるとの強い批判が沸き起こった。
  • エ さらに同年6月9日には,県警内部に警察庁の会計監査に備えた想定問答集まで作られていた事実も判明したが,愛媛県知事加戸守行は内部調査の結果を見守るという姿勢に終始した。
  • オ 内部調査の最終報告書は同年9月17日に提出されたが,その結果は,告発によって暴露された大洲警察署以外の警察署においては不正は認められず,また大洲警察署についても偽造領収書を使用した不正会計処理は認めたものの,捜査費の執行自体は捜査協力者との飲食代等として適正に執行されており,不正支出は認められなかったというものであり,到底県民の納得を得るものではなかった。
  • カ 同年10月6日,県議会は県民世論を背景に特別監査の実施を県知事に申し入れ,同年10月7日,県知事もやむなく県警の捜査費不正支出問題について特別監査を請求するに至った。
  • キ 特別監査は平成16年10月14日から開始され,平成17年3月末をめどに監査結果をまとめる予定とされているが,県警は,監査委員に対して捜査上の秘密保持や捜査協力者の保護を理由に会計資料の全面開示を拒否し,捜査員からの聞き取り調査に対しても上司を立ち合わせたり,会計課員を同席させるなど,非協力的な対応を繰り返している。そのため,監査は難航し,事案の真相解明は期待できない状況で推移していた。

5 実名での記者会見を決意するに至った理由

上述した捜査協力費不正支出問題の経過を見て,原告は,次のような理由から,実名での記者会見を決意するに至った。

  • ア 原告は,32年前から捜査協力費不正支出のための領収書作成依頼を拒否してきたが,これは,警察官たるものが犯罪に手を染めるようなことは絶対にあってはならないという信念に基づくものであった。
  • イ また,警部補以下の現場の警察官がこのような不正の根絶を願っていることを知っていた。
  • ウ ところが,総務室長の県議会での上記答弁が,全く事実に反したものであり,愛媛県における民主主義の根幹をなす県議会の権威を踏みにじるものであると考えた。
  • エ 内部調査の結果が,余りにも実態からかけ離れた空疎なものであった。
  • オ 特別監査の結果に期待できないことが心配された。
  • カ 特別監査が終わってしまうと,この問題に終止符が打たれることとなり,警察の再生を図る機会が失われてしまうと思われた。
  • キ 領収書の作成依頼を拒否している現職の警察官は,原告の知るところ県下で2名しかおらず,他の殆どの警察官は,自らの犯罪の発覚と不利益取り扱いを恐れて,告発に踏み切ることは出来ないだろうと考えた。
  • ク 原告自身が仮に不利益な取り扱いを受けるとしても,原告が捜査協力費不正支出問題の実態を明らかにしなければ,他にする人はいないのではないかと思われた。
  • ケ 私腹を肥やした警察幹部の責任を明らかにし,北海道警察の場合のように国や県に流用金を返還させ,警察の膿を出し切って,これから志を持って警察官を拝命する若い人が思う存分活躍できる警察にすべきであると考えた。

6 記者会見妨害工作

  • ア 2005(平成17)年1月13日,原告は,その上司である県警本部生活安全部地域課長(参事官)木下弘明(以下,「木下課長」という)から夕食に誘われ,その際,「総務室長の大石から,先程電話があって,『仙波がオンブズえひめの人と何かを発表するらしいから,止めてくれないか』と要請された。」と言われ,「もしおまえが発表するなら,事前にわしに連絡してくれ。」と言われた。また,その際,木下課長は,「近々(春の定期異動の)ヒアリングがあるが,おまえは(鉄道警察隊に)おるようにして,◎◎は出すけんのう。」と言っていた。
  • イ 同月19日午前10時30分頃,オンブズえひめが,マスコミ各社に対し,「20日午後1時30分から,愛媛弁護士会館において,捜査費の問題でオンブズえひめが記者会見を行う」旨連絡していたところ,その19日から20日の記者会見の直前にかけて,木下課長ら県警本部の幹部等から,20日午後1時30分から予定された記者会見について,露骨な妨害工作を受けたが,その中で,木下課長は,原告に対し,「(春の定期移動の)ヒアリングでもおまえを鉄道警察隊に残すことにしたんだから,記者会見を止めてくれ。」と言った。

7 記者会見における証言内容

2005(平成17)年1月20日午後1時30分から,愛媛弁護士会館において,原告は,オンブズえひめのメンバーである弁護士5名とともに記者会見を行ったが,その際,原告は概略次のような内容の証言を行った。

  • ア 原告は,1973年(昭和48年)から1995年(平成7年)にかけて自分の所属した県内7署の全ての警察署で偽造領収書の作成を依頼されたことを明らかにし,偽造領収書は裏金作りの手段であったと証言した。
  • イ 偽造の手口も,電話帳から抜粋した住所氏名を書いたメモを会計課長らに渡され,そのとおりに領収書に書き写すものであったと具体的方法を明らかにし,同じ筆跡のものが多数あると疑われるので1回につき3枚がめどとされていたと証言した。
  • ウ さらに,これらは架空の捜査協力者をでっち上げたものであるから,捜査協力者への実際の支出は皆無であると証言した。
  • エ また,偽造領収書の作成は,警察官が昇任する際の「踏み絵」として半ば強制されており,これを書かない限り上級へ昇任することはできない仕組みとなっていると証言した。
  • オ 偽造領収書の作成を拒否し続けた原告は,巡査部長から警部補へ昇任することなく30年を経過し現在に至っている。偽造領収書の作成を拒否し続けている警察官は,県内には原告を含めて2名しかおらず,もう1名も巡査部長である。

8 拳銃の取り上げ,本件配転命令の内示と辞令交付

原告は上記7の記者会見の結果,以下の報復を受けた。

  • ア 平成17年1月20日午後4時頃に上記記者会見が終わったが,午後5時過ぎ,木下課長から原告の携帯電話に電話があり,「原告の拳銃はすでに同課長が預かった」旨連絡があった。原告が,「明日からの勤務をするのに支障がある」と抗議すると,木下課長は,「自殺防止のためだ。」と答えた。
  • イ 同年1月24日午前9時30分ころ,上甲保男生活安全部長より同部長室に呼ばれ,「ただ今をもって通信指令室への人事異動を内示します。」と伝達された。原告が異動の理由を質問すると,初めは「言う必要はありません。」と応答したが,なおも質問すると「3月に指令室員に退職予定者がいて手薄になるから即戦力として行ってもらいたい」と応答した。原告が指令室の業務に全く精通していないこと,退職予定者は鉄道警察隊にも7名中,3名もいて応援がほしいのは鉄道警察隊であることを指摘すると,同部長は「あなたの記者会見での発言の中で,自殺を仄めかす内容が見受けられたので,自殺防止のためです。」と応答した。原告は「記者会見では自殺をするといった事実はありません。有形無形の圧力に対して頑張ろうとする気持ちを表しただけです。自殺することはありませんから拳銃を返して下さい。」と求めたが,同部長は「もう決まったことだ。今から12時まで残務処理をして午後から指令室で勤務して下さい。」と指示した。原告は「納得がいきません。」と答えた。
  • ウ 同日午後0時20分に再度,同部長室に呼ばれた。同部長は原告に「それでは正式に通信指令室への人事異動の内示をします。」と告げた。「異動は何日付ですか。明日ですか。1ヶ月後ですか。」と質問すると「分からない。発令権者である木下参事官が休暇を取っているので,出勤してから指示します。」と答えた。「発令権者である木下参事官が不在なのに内示の発令ができるのですか。」と質問すると「木下参事官の上司である生活安全部長の権限により内示します。」と答えた。
  • エ 1月27日8時50分から,県警本部地域課において辞令交付式があり,木下課長から辞令「通信指令室企画主任を命ずる」を交付された。通常,辞令の交付の際に理由を告げることはないが,その際,同課長は7,8名の課員の前で,異動の理由を次のように原告に告げた。仝狭陲藁更堙で県内各地の地理に精通しており,緊急配備箇所等の見直しに適任であること,拳銃を取り上げているため,署外勤務(制服時)をさせることができないこと,今までの原告の言動から,自殺及び他人を傷つける可能性があると判断し,そういった行為に拳銃を使用するのを防ぐ必要があること。

第3  違法行為

1 記者会見妨害工作の違法性

原告が記者会見において捜査協力費不正支出問題等を明らかにすることを妨害した行為は,以下の理由により違法である。

  • ア 表現の自由
    • 原告の行おうとした記者会見は,憲法21条1項の保障する表現の自由の範囲内の行為であることは明らかであって,これを妨害する行為が,原告の表現の自由を侵害するものとして違法であることは明白である。
  • イ 公務員の告発義務
    • a 刑事訴訟法239条2項は,「官吏または公吏は,その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは,告発をしなければならない。」と規定して,公務員に告発義務を課している。
    • b 原告は,警察官として知りえた犯罪行為を告発するために記者会見に臨もうとしたのであるが,県警の幹部たちは,犯罪があることを知悉しながら,原告の記者会見を妨害しようとしたものであって,その違法性は明白である。
  • ウ 公益通報者保護法
    • a 内部通報が社会にとって有用であることが明らかとなり,平成16年6月18日,公益通報者保護法が制定公布された。
    • b 同法の趣旨からしても,原告の記者会見を妨害することは,同法の趣旨を没却する違法行為であるということが出来る。

2 けん銃を取り上げたことの違法性

  • ア 警察法67条は,「警察官は,その職務の遂行のため小型武器を所持することが出来る。」と規定して,警察官の拳銃の所持を認めている。
  • イ また,警察官は,制服を着用して勤務するときは,けん銃を携帯するものとされている(警察法施行令第13条,国家公安委員会規則13号第11条1号本文)。そして,その例外は,警察官が室内で勤務するとき(同規則11条1項1号),けん銃を携帯することが職務遂行上特に支障があると所属長が認めたとき(同9号)などの場合に限定される。
  • ウ 警察官であるにもかかわらず,拳銃の所持が認められず,また,上記例外事由に該当しないのに,人事管理権者が警察官の意に反してけん銃を取り上げる措置をとることは,当該警察官の職務の遂行を困難にすることであり,違法行為となる。
  • エ 上記第2,8,ア記載のとおり,原告の記者会見の直後,原告が保管するけん銃を取り上げる措置がとられたが,これは粟野県警本部長が自ら指示し,またはその承認のうえでなされたものである。
  • オ しかし,この措置は警察官であるにもかかわらず拳銃の所持を認めない措置であると同時に,前記例外事由のいずれにも該当しない違法な措置である。
  • カ およそ職務を遂行する警察官にとってけん銃を携帯することは職務上の義務であるだけでなく,第一線の現場で身体を張って暴力から市民の安全を守るという職業上の矜持の象徴であり,支えでもある。
  • キ 従って,警察官の職にある者に対し,人事管理権者がけん銃を一方的に取り上げることは,警察官の職務を遂行する適格性がないと評価して処遇する不利益な取り扱いといわなければならない。
  • ク 原告は,1月27日に辞令の交付を受けるまで,鉄道警察隊員として制服を着て職務に従事したが,原告ただ一人,拳銃のない丸腰の状態で職務に従事しなければならなかった。
  • ケ 原告は拳銃を取り上げられ,現在通信指令室において勤務しているが,同室に勤務する警察官も各人拳銃を所持しており,愛媛県下2324名の警察官の中で,拳銃を所持していない警察官は原告ただ1人となった。
  • コ この措置を事前に何らの弁明手続を経ないで行うことはそれ自体,手続上,違法であるばかりか,公益目的から新聞記者を通じて県民に通報する行動をとった原告に対して,原告は警察官としての適格性がないと組織の内外に表明したに等しく,その行動に対する陰険な報復,見せしめをしたものと客観的に評価される。
  • サ また,上述したように,1月27日の辞令公布の際,木下課長は,原告に対し,「今までの原告の言動から,自殺及び他人を傷つける可能性があると判断し,そういった行為に拳銃を使用するのを防ぐ必要がある」旨発言したが,これは,原告の人格をあからさまに傷つける発言であって,到底許されない。

3 本件配転命令の違法性

  • ア 公務員の労働関係において任命権者は所属する職員に対して人事管理権の行使として配転命令をなすことができるが,その行使は合理的な裁量権の範囲内においてなされることを要する。合理的な裁量権の範囲を逸脱するものか否かは,当該配転命令に組織としての業務運営上,客観的な必要性・合理性が具備されているかどうか及びその程度,当該配転命令による本人の不利益の有無とその程度を考慮して判定されるべきである。
  • イ 本件配転命令は,県警の組織の業務運営上,その必要性が乏しく,原告の不利益取扱いを伴うものであるうえ,原告の行動に対し,原告が警察官としての適格性がないとの評価を組織の内外に表明して報復,見せしめの意味を有するものであって,これらを総合すれば裁量権の濫用として違法というべきである。すなわち,
    • a 記者会見の直後にけん銃を一方的に取り上げ,警察官たる鉄道警察隊員としての職務の遂行を困難とさせたうえ,4日後の内示,7日後の辞令で室内勤務に配転した経過から明らかなとおり,本件配転命令はけん銃の取り上げ措置と連動した不可分一体の措置としてなされたものである。
    • b 上述したように,1月13日ならびに19日に,木下課長は,原告に対し,春の定期異動においても原告は異動しない旨発言しているとおり,原告の異動は当面ないことが県警内部においてまさに内定していたもので,春の定期異動に先立つ異例の本件配転命令が,原告の記者会見に対する措置としてなされたものであることは明らかである。
    • c また,鉄道警察隊の2月の勤務表は既に出来上がっており,原告の鉄道警察隊での勤務が記載され、木下課長が1月15日頃には決済済みであった。他方,通信指令室の2月の勤務表も既に出来上がっており,当然のことながら,その勤務表には原告の名前は存在しなかった。このことからも、原告の異動が全く予定されていなかったことが明白である。
    • d 通信指令室企画課主任の職は1月26日に急遽つくられたものであり,組織上の必要性・合理性がないにもかかわらず、原告を異動させるために設けたポストである。
    • e そのポストは,実際の仕事がほとんどないポストで,鬼北,内子,野村署が3月末に廃止統合されることから4月1日以降にその3署の無線機を引き揚げることが予定されているだけである。それ以外に,緊急配備する箇所を見直してもらうと言われているが,原告には勤務の経験のないところばかりで,原告が適材であるとは到底いえない。
    • f 通信指令室の人員は足りており,鉄道警察隊の方が人員の補充を要する状態であった。
  • ウ 県警本部は当初は「告発会見とは切り離して考えている。(中略) 所属長が本人の実績,経歴等を踏まえて適材適所,効率化を考えた。」と説明していたが,その後,県警本部がホームページなどで本件配転命令の理由を公表したところによると,第1に「本人の発言等や会見後の状況から,自傷のおそれのほか,県民と日常的に接触し,武器を携行して単独で職務執行を行う鉄道警察隊勤務に支障が生じるのではないかとの疑念が払拭できない」ことをあげるにいたった。しかしながら,県警本部の説明には,明らかな変遷がある上,自傷のおそれを認めるべき事情は存在しないし,「鉄道警察隊勤務に支障が生じる」云々は意味不明であると言わざるを得ない。
  • エ また,上記ホームページでは,第2の理由として,会見における発言内容等に関する聞き取りをスムーズに行うことができ,本問題の解決にも寄与することをあげている。しかし,聞き取りのためには配転を必要とせず,現状のまま聞き取りをすることで支障は考えられない。「本問題の解決に寄与する」との点はこれも意味不明である。
  • オ そして,第3に,通信指令室において当面の業務量が増えていることをあげているが,前記のとおり通信指令室企画係の主任という職は平成17年1月26日に新設されたことからすると,原告を原職から外すために新設したものにすぎない。実際,同時に新設された「企画課長補佐」の職にも人員の配置はなされていないのである。

第4  被告の責任

1  警察官に対する人事管理権と公権力の行使

  • ア 被告には普通地方公共団体の事務である警察事務(地方自治法2条2項,3項1号)を処理する責務があり,警察法に基づいて愛媛県警,県警本部及び県警本部長を置き,県警本部は愛媛県公安委員会の管理の下に県警の事務をつかさどる権限を有し,県警本部長は県警本部の事務を統括し,並びに県警所属の警察職員を指揮監督する権限を有し(警察法36条,47条,48条),それらの権限行使によって被告の警察事務が処理されている。
  • イ 県警本部長は,所属の警察職員を指揮監督するため任命権者の地位にあり,地方公務員法,条例,人事委員会規則等に従い,任用及び給与,勤務時間その他の勤務条件,並びに服務など職員の人事管理に関する権限を自ら,または補助機関に委任して行使している(地方公務員法6条1項,2項,警察法56条2項)。
  • ウ 従って,警察官である原告に対する人事管理権の行使は,県警本部長が自らまたは補助機関に委任してその承認のもとに行使される公権力の行使(国家賠償法1条1項)に該当する。
  • エ 県警察本部長粟野友介,県警察警務部長長谷川周夫,県警察生活安全部地域課長木下弘明は,任命権者またはその補助機関として,原告に対する人事管理権を行使するにあたり,協議のうえ,上記第3記載の違法行為を行った。
  • オ この違法行為は任命権者である県警察本部長及びその補助機関によって,被告の警察事務の内容である所属警察官の人事権の行使等として行われたものであり,これは公権力の行使に該当するから,被告は原告に対し,国家賠償法1条1項により,上記第3記載の違法行為によって原告が受けた損害を賠償すべき義務がある。

第5  損害

原告は県警の警察官を昭和42年に拝命して以来,現在まで制服警察官の職業に誇りと愛着をもって職務に精励してきた者である。不正な領収書の作成依頼を拒否し続けたのは,国民の安全を守り,正義を貫くべき警察官としての誇りがそれを許さなかったためである。そのことによって昇進や異動によって差別的,不利益取扱いがなされ続け,あと5年後に定年退職を迎えるまでにになった。多くの警察官と同じく,心ならずも上司の説得に屈し,節を曲げて領収書作成に協力した場合と比較すると,現在までの処遇や退職後の将来の経済的,社会的な利益,地位の観点からみて,有形無形に大きな損害,不利益があることは容易に認められるが,原告には警察官としての誇りを全うした満足感はあっても後悔はない。しかし,県警の幹部が捜査協力費の不正処理の疑いを追求されても,あくまで事実を隠蔽しようとする対応をみるにつけ,県民の信頼を県警が回復し,第一線の警察官が誇りをもって職務に従事するためには,原告が真実を証言するほかないと決意して今回の記者会見に臨んだものである。それに対する県警の対応は,前記のごとく裁量権の合理的な行使の観点等からいって到底理解することができないばかりか,原告には制服警察官として適格性がないと陰険に当てこする措置をもって応じたものであり,その違法性,原告の受けた精神的苦痛は大きい。これらを金銭に評価すると金100万円を下ることはない。

第6 結論

よって,原告は,被告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,金100万円の損害賠償を求めるものである。

添付書類

1,委任状  1通

証拠方法

被告の答弁を待って提出する

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