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「だいじょうぶ? 日本の警察」より不正経理問題部分

最終更新時間:2004年07月26日 07時58分07秒

日本弁護士連合会主催の第45回人権擁護大会シンポジウム第1分科会基調報告書「だいじょうぶ? 日本の警察 −市民が求める改革とは−」(2002/10/4)より、第1章第2節「主な警察不祥事の内容分析」のうち、第1「はじめに」及び第2「不正経理問題」(p18〜)を参考までに転載します。

※なお、「本章末尾資料第1」は割愛させていただきます。


第1 はじめに

 第1節で、警察官の不祥事を概観したが、すべての不祥事について事案の内容、原因の分析まで試みることは、到底できないので、不正経理問題、緒方氏宅電話盗聴事件を含め、近時における警察の不祥事の中で特に重要であると思われる下記10の事案について、判決、冒頭陳述要旨、新聞記事、文献等に当たるとともに、関係者から事情を聴取するなどして、事案の内容、原因の分析を試みることとした。

第2 不正経理問題

  1 この間題を取り上げた趣旨

 警察幹部であった故松橋忠光氏によれば、不正経理問題は昭和20年代から存在し、同氏は、著書「我が罪はつねにわが前にあり」の中で、この間題が警察組織を蝕み、警察腐敗の原因になっていると警告を発していた。不正経理は、横領、文書偽造などの犯罪を伴い、警察官の規範意識を麻痔させるもので、他の様々な不祥事の原因になっているとも考えられる。

  2 発覚の経緯

 今回、いくつかの事例を調べたが、いずれも退職警察職員による告発や、ジャーナリストに対する内部からの匿名での情報提供が情報源である。

 しかし、疑惑が報道されても、警察は否認、黙殺の態度を一貫しており、訴訟でも、後述の赤坂署の例にあるように、事実の解明には極力抵抗している。また、不正経理を警察内部で正す動きがあるとの情報はない。

  3 不正の方法(いくつかの個別事例については本章末尾資料第1参照)

 後述の事例ごとに手法は異なるが、骨格は次のとおりである。

 捜査費、旅費などで、架空の支出を作り、裏金をプールする。架空支出のためには、末端の職員も協力して偽領収書等が作られている。

 作られた裏金は、幹部のヤミ給与等として、上部に手厚く配分されるほか、飲食代などとして、広く末端の職員にも配分されている。

 裏金作りは各組織のトップが主導し、会計担当者が裏帳簿作りなどの「実務」を行う相当数の職員が関与する組織的なもので、金額も、トップが取得している金額は、看過できないほど高額になる。

 この裏金づくりの手法については、2002年に発刊された元警視庁会計担当職員の大内顕氏の著書「警視庁裏ガネ担当」(講談社)で、その手法が詳細に紹介されている。

  4 不正経理の原因

 警察の不正経理についての情報は極めて少なく、時折ある「命がけの」内部告発で、ようやくその一端を垣間見ることができる。警察官からは、退職後も情報を得ることは困難で、外部からのチェック機能は極めて微弱である。このような状況では、信じたくない現実ではあるが、組織的に裏金作りが行われているとしてもおかしくない。

 裏金作りには、業務上横領、詐欺、虚偽公文書作成、同行使等の犯罪が伴う。

 かかる行為が、警察によって組織的に長年にわたって行われてきているとすれば、事実を公にするについて、警察の必死の抵抗が予想され、真相解明は相当困難である。

(1)情報不足

 警察の裏金作りについては、古くから指摘はあったものの、まとまった内部告発としては、1984年の元警視監松橋息光氏の前記著書が最初である。

 最近になって、裏帳簿の現物、偽領収書の現物、偽呼出簿等がマスコミや、訴訟で出されたり、内部告発等が続いているが、警察はいまだに事実を否認するか、黙殺している。訴訟をおこしても、赤坂署の例にあるように、支出した金員を返還したり、認諾するなど判決や証人尋問を回避する方策をとっているので、いまだ不正経理について、裁判上認定された事案がない。

 各地の条例で、警察が情報公開請求の対象になってきている。今後得られる情報が増えるので、真相解明はこれからである。

(2)外部に漏れない

 どの事例でも、関与している警察官は相当の数に上る。しかし、退職後も含めて、不正経理の実態は表に出ない。今回のシンポジウム準備の過程で、ジャーナリストの落合博実氏(朝日新聞)や元警察職員から事情を聞くなどした結果から、外部に漏れにくい理由として次のような事が挙げられる。

  • (ア)警察内部は徹底した縦社会であり、不正を指摘したり、外部に暴露することができない(人事などで不利益な扱い等が予想される)。
  • (イ)その中で、最初は罪悪感を感ずる職員も次第に慣れていってしまう。
  • (ウ)警察内部では、不正を追求する動き(オンブズマン等)に対して、敵対的な教育がなされている。
  • (エ)不正経理の「恩恵」は、幹部のみならず広く職員全般に及んでおり、「口止め」がなされている状態である事。
  • (オ)不正経理の暴露は、自分自身の違法行為の暴露でもある。
  • (カ)裏金の使途などについては、幹部以外はあまり知らず、「捜査情報を得るには金がかかる」といった説明で納得している場合も多い。
  • (キ)仮に内部告発をした場合には、徹底した攻撃が予想される(検察庁の裏金づくりを告発しようとした大阪高検の三井元検事の逮捕も、その可能性が指摘されている)。
  • (ク)退職後も警察との関わりは切れない(就職の斡旋の際には、警察との関わりの深い業種への就職など)。

(3)外部からのチェック機能の弱さの原因

 朝日新聞の落合氏は、外部からのチェック機能の弱さを次のように指摘する。

会計検査院は、戦後一度も不正を指摘していない。愛知県警の事例では、裏帳簿という決定的証拠を取得しながら指摘をしていない。機動隊の事例でも、大内氏の審査請求を門前払いをしただけで、終えている。検察庁も、独自に捜査はしない。」

「ジャーナリズムも、追求は弱い。理由としては、マラソンなどの事業を行う際の交通規制、販売店の問題、右翼対策等で、警察ともめることを避けたいという事があるらしい。」

「国会、議会も選挙違反の摘発等を恐れ、警察の不正には及び腰」とのことである。

 落合氏によれば、徹底した情報公開請求しか改善の道はないという。

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