住基ネットの問題点に関するコメント
更新:
2002/8/20
日弁連 情報問題対策委員会 副委員長 杉浦英樹
- 最近のマスコミ、政府答弁の論調は、「個人情報保護法制が整備されているか否か」といった論点にやや流されている感がある。しかし事はより根源的な「国家と国民」との関係を如何に考えるかという国家観の問題であることを、まず認識しておく必要がある。
- すなわち、「国家が国民を統治(支配・管理)するものか」、「国家が、国家を憲法を最高規範として国民の安全な生活を確保するシステムととらえるか」という観念の問題である。
- 後者であると考えれば、…国家が必要以上に国民のセンシティブ情報(思想・信条・財産・病歴・門地など他人に知られたくない情報)を収集管理すること自体が否定されなければならない。ましてや住基ネットの如く、国民総背番号制につながるシステムは、それ自体、否定される必要がある。単に個人情報保護法制が整備されているか否か、というレベルの問題に矮小化されてはならない。
- 現時点で、住基ネットを稼働することは住基法付則1条2項に違反する。
- 政府は、付則1条1項で8月5日の施行を義務づけている、稼働しない自治体は、法律違反を犯すことになると誤った説明をしている。
- しかし、法律は、一つの条文を見るのではなく、全体で解釈する必要がある。住基ネットの場合、個人情報保護法制の整備が付則第1条1項の稼働の条件であるから、政府の見解は誤りである。
- 片山大臣は、「住基法は個人情報保護法の特別法である」とするが、誤った見解である。
- 片山大臣は「個人情報保護法案を国会に提出しただけで、政府として所要の措置をとった」とするが、これは誤った見解であり、国民を愚弄するものである。
- 片山大臣は、「住基法自体の中に目的外使用の禁止と罰則規定があるから、大丈夫だ」と弁解するが、その適用範囲は限定的であり、罰則は十分でない。また、罰則規定をも受けているから大丈夫だという考え自体が、誤っている。
- 政府は、「自治体はすでに準備をして400~500億円ほどの費用を出している。今止めると無駄になる。キャンセル料も入れると700億円以上かかる」などとするが、これは法律論でなく、国民に対する一種の恫喝である。
- 矢祭町、国分町などを除く全国3200余の自治体が、住民情報の連結をしたとすれば、それ自体が、違法行為を行なうことになる。
- 推進に賛成の自治体はわずか20%
- 自治体職員でコンピュータに精通している→16%
- 住基ネットの管理に民間業者を使っている→69%
- 住基ネットは国の押しつけ
- これだけの巨大なシステムをつくるのに、自治体、住民に説明がなく、議論する機会も与えられていない。
- 費用と責任の全てを自治体に押しつけ、旨味だけ国がもっていってしまうシステム
- 自治体にとって深刻な財政負担
- コンピュータに詳しい職員がいるわけでなく、セキュリティに不安がある。
- 国家による国民の管理
- 国内の行政職員・委託を受けた民間からの情報漏洩の虞れ
- 海外の組織、国家からの圧力
- 近い将来、民間と連結されることが予定されている。
- 行政機関個人情報保護法案は、行政相互の国民のプライバシー情報の使い回しに、お墨付きを与えるものであり、役に立たないばかりか、有害である。
- 罰則規定の有無と効果
- 仮に罰則規定を設けても、漏洩、目的外使用は防止できない。(原発情報の漏洩、四日市市の住民情報の不正アクセス)
- 国家公務員法、地方公務員法の罰則:1年以下の懲役、3万円以下の罰金:職務上知りえた秘密を漏らした場合
- 個人情報保護法案:罰則規定なし
- 地方自治法は、住民の個人情報を守る法的義務がある。
- 現在の法制度の下で、地方自治情報センターに情報を提供することは、違法である。
- 連結禁止規定を持つ自治体は、その条例にも違反する。
- 洩れた場合の責任は自治体が負う(京都府宇治市の場合)。
名古屋市中区丸の内2丁目16番23号 丸の内ステーションビル8階
弁護士 杉浦英樹
TEL 052-220-5151、FAX 052-220-5152
E-mail: hideki-sugiura@nifty.com
HTML化したいしはら(isihara at search jkcc gr jp)より補足。
名古屋市民オンブズマンタイアップグループの定例会(2002/8/20)でご本人により配布されたものよりHTML化した。
HTMLにするに当たって、明らかな誤字を訂正した。