松久 夏子 インターン感想

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松久 夏子 インターン感想
 

全国市民オンブズマンインターン体験記
                          松久 夏子

・ 概略
レポート作成にあたり、内容の指定はなかったので、学問的な論文を書かねばならないのかとも悩んだ。しかし、そのようなレポートを作成するのは無理だし、読んでいただけないのでは、と思い、オンブズマンに参加して感じたことを素直にまとめてみることにした。

1.きっかけ
私は、今年の6月に今年勝負をかけた司法試験の短答式に落ちてしまい、今後の身の振り方を決めかねていた。
そこへ、幸運にもオンブズマンのインターンの募集を知った。
私は、今まで大学入試や司法試験の受験を理由に社会に対して目を向けることを避けてきていた。
しかし、私の原点は、よりよい社会に変えていくための仕事をしたい、そのための可能性として弁護士を選んだのだった。
それならば、きっと弁護士にならなくても、実現するはずだ。はじめから大それたことは出来ないけれど、小さいことから始めれば。もう、小さな部屋に閉じこもって待っているのはいやだ!
 そう決意して、司法浪人生のまま、オンブズマンに参加することになった。

2.仕事
  仕事は見るものすべてが新鮮で、興味深かった。そして、そのひとつひとつについて、内田さんが説明してくださった。
  最初に目にした興味深いものは、公共工事の落札結果報告書だった。
  これは、今回のインターンとしての仕事の中心のひとつである、公共工事の落札率調査のために、全国のオンブズマンから、または、直接公共団体に請求して収集し、数値をパソコンに入力し、最終的には全国の地方公共団体について統計を出す元の資料となるものだった。
  大会が終わり、全国の報告書を見てきた今となっては、珍しくもないが、社会経験のない私にとっては、実際にこのような公共工事が発注され、業者が入札した結果が見られるのは、ワクワクするような経験だった。他にも、内田さんは、県や市の情報公開窓口や、高速道路公社などでの情報公開請求に立ち会わせて下さった。

3.名古屋タイアップグループ
  また、オンブズマンに関わっていらっしゃる方々と出会えることは、私にとって本当に嬉しい事だった。
 オンブズマンは弁護士の集まりだと思われがちだが、少なくとも名古屋のオンブズマンタイアップグループではそれは当てはまらず、いろいろな職業の方が参加していらっしゃる。主婦の方、学校の先生、ヨットクラブの会長さん・・・
  どの方も、快活でエネルギーにあふれていて、魅力的だった。なかでも、前田さん、松村さんの活躍は、女性として勇気付けられ、本当に励まされた。このとき、オンブズ「マン」が男性を指すものでなく、「人」を指す固有名詞であることを知った。
  また、タイアップグループの定例会,火曜会で司会を務める新海先生。
  時には、弁護士の先生であることを忘れてしまうほど、気さくで、自由で、公正な方だ。
 このような方々が集まる火曜会は、「行政を市民の手に取り戻す」というあまり日本人が議論したがらない議題であるにもかかわらず、自由で楽しい。
  誰でも参加でき、オンブズマン0年生の私でも会での発言が許される。記者の方の参加も多い。
  このような場所で社会勉強させていただけたことは、本当に幸運だったと思う。

3.インターンを終えて  
  ところで、私はオンブズマンのインターンということで採用されたが、2ヶ月オンブズマンで働いたからといってオンブズマンになれるわけではない。また、2ヶ月働かなくてもオンブズマンになれる。
  では、どうしたら「市民オンブズマン」の一員になれるのだろう?
  フランス人の常識では「市民」の要件は、�@職業人としての立場、�a家庭人としての立場、�b社会人としての立場、を持っている人だという。「市民オンブズマン」の「市民」も同義ではないだろうか。そうだとすれば、仕事を持たず、まだ社会経験がない私は、�@の職業人としての立場を満たさないため、まだオンブズマン0年生ではないかと思う。
 しかし、オンブズマンでもっと重要なのは、�b社会人としての立場ではないか。
  つまり、社会に対する責務として自分の所属する社会に関心を持ち、より良くしようと思索し、実行に移す。ボランティアではない。また、もちろん弁護士でなくともよい。  
市民としての当然の役割を果たす、それがオンブズマンに不可欠の要素ではないだろうか。

 新海先生にインタビューにいらっしゃったフランス人記者とお話しする機会があった。そのとき、「保守王国」岐阜県民であることを伝えると、彼に、「岐阜は農民一揆などあったのになぜ・・・」と問いかけられた。フランス人がフランス革命を起こしたように、抵抗する一般人が存在する歴史があるのならなぜ、現在「保守王国」となっているのか、という問いだったのだろう。私はその問いかけに答える事が出来なかった。
 なぜだろう・・・?
 確かに、物の本に書いてあるように「変化を好まない国民性」とか、「農民を支配している農協の存在」とか、原因はいくつも挙げられる。
 しかし、それは私たち日本人の歴史が招いた必然ではないと思う。ただ、現在に生きる人々の大半が日々の生活に流されているうちに、よりよい社会にしようという本来の責務を忘れ、努力を怠り、その結果理想の社会などありえないと、その存在を考えることすら怠っているだけではないか。現在の社会にたくさんの不満や不安を抱いているにもかかわらず。
 そういう私もオンブズマンに参加するまではそのような人々の仲間だった。自分にはなにも出来ることはないと、決め付け、考えること、行動することを怠っていたのだと思う。
 しかし、オンブズマンの人々の前ではそのような泣き言は聞いてもらえない。仲間と作戦を練り、行動あるのみ。私にとって、今回のインターンシップでの最大の成果は、その精神を持ち帰ることが出来たことだと思う。また、それにより、ようやく私もオンブズマン1年生になれるのではないだろうか。

4.最後に
  オンブズマンは、今後より専門化高度化して、行政に対し今よりもっともっと大きな影響力を持つ強力な市民団体になることだろう。
 しかし、他方で、タイアップグループの自由な活動により、より多くの私のような「普通の人」にオンブズマンの精神が広まってほしい。現状を見つめ、工夫する努力を思い出してほしい。今後は、そのお手伝いをさせていただきたいと思っています。

  新海先生、内田さんをはじめ、タイアップグループの皆さん、市民オンブズマンの先生方、役不足なことも多く、勉強させていただくばかりの2ヶ月間でしたが、本当にありがとうございました。

                                   以上