トップ 履歴 一覧 ソース 検索 ヘルプ PDF RSS ログイン

16/4/23 「監査制度の活性化のために」 橋本吉行弁護士講演録

最終更新時間:2016年05月18日 09時52分51秒

はじめに

16/4/23にかながわ市民オンブズマン主催で、2015年包括外部監査の通信簿「オンブズマン大賞」に選ばれた橋本吉行弁護士講演会「監査制度の活性化のために〜神奈川県警の監査を切り口として」が開催され、大盛況でした。藏本隆さん(公認会計士/オンブズ会員/上記包括外部監査補助者)との対談形式となっています。橋本弁護士ならびにかながわ市民オンブズマンの了承を得て、講演録を掲載いたします。

「監査制度の活性化のために ー神奈川県警の監査を切り口として」講演録

 包括外部監査の仕組みと趣旨

橋本 包括外部監査は、平成10年の地方自治法改正により平成11年4月から実施されるようになった。制度導入の背景のひとつは、地方分権化への流れのなかで国が地方公共団体に対し後見的役割を果たすという関係から対等な協力関係になるということで、後見的役割に代えてチェックシステムが必要となったこと。もう一つは、当時、地方公共団体でのカラ出張、官官接待、公共工事を巡る不正などが取り沙汰されるようになっており、従来からある監査委員という制度だけでは防げなかったことから、外部の立場で専門的な監査を行い、これにより住民の信頼を高めていくということが期待されたことだ。

包括外部監査は、「財務に関する監査」であり、3E監査、すなわち経済性、効率性、有効性の監査を行うこととされている。

包括外部監査を行う「専門的知識を有する者」として、弁護士、公認会計士、実務精通者のほか税理士と定められている。神奈川県は、平成11年以来、公認会計士・税理士が包括外部監査人であったが、一度、弁護士による監査を受けたいと、平成24年に県から弁護士会に推薦依頼があった。翌年3月の議会で議決を得て4月1日に包括外部監査契約を締結した。監査委員と違い、監査の独立性のために、地方自治法は外部監査制度を契約として構成している。

包括外部監査は、監査をする側は現場のことをあまりわかっていないというやりにくさがあり、監査を受ける側も外部から監査を受ける経験がないし内部情報を外部に出すことへの拒否感がある。

そのようななかで監査を行うにあたって心がけたことは、「なぜこの業務を行うのか」ということについて自分自身が明確な意識をもつ、ということだ。この仕事の依頼者は誰か、ということを考えると、契約の相手方は県だが、監査は県民が行政の説明責任を求めていることに応えるものであるから、実質上の依頼者は県民であり県議会だ。そして、依頼者は地方自治法そのものでもある。判断に迷うときは、「地方自治法は何を実現しようとしているのか」ということに立ち返って考えた。

監査を行うにあたり、もう一つ心がけたことは、監査先の現場職員と、緊張関係をもちながらも、監査が県にとっても意義のあることだということをわかってもらう、ということだ。公務員はまじめであるし、僅かな間違いでも批判を受ける仕事である。批判をされると萎縮するし、人は萎縮をするとどうしても責任逃れが始まってしまう。だから、重箱の隅をつつくようなことはせず、職業人として真面目にやっている仕事に敬意をもって監査を行うようにした。

藏本 包括外部監査人の監査は、地方自治法252条の37に規定があり、財務の執行及び事業の管理のうち、地方自治法「第2条第14項及び第15項の規定の趣旨を達成するため」に必要なことを行うとされている。地方自治法2条というのは地方公共団体がすべきことが十数項、列記されている。そのなかであえて「第14項(住民の福祉の増進、最少の経費で最大の効果)及び第15項(合理化、規模の適正化)」だけを対象としている。たとえば第16項は「法令に違反して事務を処理してはならない」という当たり前のことが書かれているが、これは対象とされていない。包括外部監査について、オンブズマン会員としては色々踏み込んだことをやってほしいと期待するだろうが、不正なことを正そうというよりは経営の合理化、お金の使い方に主眼を置いた仕事であることは認識しないといけない。

 監査テーマの設定について

橋本 監査テーマを選ぶにあたり、一番役だったのはイエローブック(全国市民オンブズマン連絡会発行の「包括外部監査通信簿」)だ。これで、地方公共団体の問題とすべき点が概ね把握できる。

警察費をテーマに選んだのは、一つは警察活動への期待。平成11年に神奈川県警で現職の警察官の覚醒剤使用と、本部長によるもみ消しという事件が起きた。本部長が起訴され、判決で「万死に値する」と断罪された。この事件をふまえて警察改革がされたはずであるが、それ以降も不祥事は報道されている。何か正すべきことがあるかもしれないと思った。一方で、マスコミは叩くばかりでマイナス面のみがクローズアップされがちだが、本来の警察活動で評価すべき面はあるはずで、それを県民に情報提供することにより、より良い警察活動を築くきっかけになれば、という思いもあった。

財政上の観点も理由のひとつだ。神奈川県の一般会計予算は1兆9000億円、警察費は1800〜1900億円。警察費は県の財政の1割を占め、この割合は全国で最も高い。緊急財政対策をとるほどお金のない県にとって、財政に占める割合の高い警察費の監査を行う意義は高い。

また、警察費の監査は、弁護士でないとやろうという発想が起きないのではないか。警察署には被疑者接見でしょっちゅう行くので、警察署の建物に入ることにも抵抗感が無い。折角、県の方から「弁護士の監査を受けたい」と言ってきたので、警察費をやろうと思った。

藏本 包括監査のテーマは、基本的に何をやってもいいことになっている。平成25年当時で、それまでに全国の都道府県で実施されたテーマが約700、そのうち警察をとりあげたのは10あるかどうか、 1%くらいか。神奈川県は、普通会計において歳出の中で警察費の占める割合が概して高く、総務省が公表する平成24年度都道府県決算状況調では、47都道府県で1番高い。低いところは島根、福島、宮城、岩手で2〜3%。大都市圏は高いが、その中でも神奈川県は高止まりしている。

テーマに選びにくい分野はある。たとえば福祉関係は予算を削りにくいし、基本的に効率性で判断しにくい。また、自治体によっては手を付けにくい分野があるようで、横浜市でいえば港湾局。平成18年度に港湾局をテーマにした包括外部監査の補助者をしたが、他の補助者経験時と比べて資料の提供が慎重で、対応も硬直的だった印象がある。

取り上げにくい警察費の監査をやらせてもらって、いい勉強になった。

 監査業務の進め方

橋本 4月1日に契約締結をするが、補助者を決めるのは監査委員と協議してということになっているため、実際に監査に入れるのは5月に入ってから。12月には報告書を印刷に回さなければならないので、最初に年間計画をつくって進行管理をしっかり行うことが不可欠だ。

警察費は規模が大きい。最初に決算審査説明書等の資料を読んで事前に質問事項を出し、県警本部会計課からレクチャーを受け、全体像をつかんだ。そのうえで、現場に行って質問をし、資料を提出してもらう。内部の資料は、読み方からしてわからないので、「なんで」と聞いていく。聞かれた方は「なんで、と言われても前からこうしているので・・」。しかし、納得できるまで聞いた。

県警本部会計課の説明は、どうしても整理されたものになってしまうため、できるだけ現場に行って、直接現場の職員から聞いた。行った現場は、県警本部では暴力団対策課と国際捜査課(捜査費)。加賀町警察(労務管理)、戸部警察署(遺失物管理)、相模原警察、厚木警察、本郷台にある警察学校、二俣川の自動車運転免許試験場、他。

県職員でない外部の関係者に対しても、法律上、監査委員と協議した上で行うことができることになっている。交通安全協会について、関係人調査をしたいと申し出たら、監査事務局は「我が県では前例がありません」。法律に規定があることを指摘して、実施した。ちなみに、関係人の旅費日当等の諸費用も、監査契約の委託料に全部込みという扱いになっている。

 個別論点―公安委員会

藏本 監査で取り上げた論点をいくつか紹介していきましょう。まず、公安委員会。年間予算3000万円弱で、うち委員報酬が2000万円くらい。実は、私は、公安委員会については、取り上げることにはちょっと反対だった。財務の合理化等の切り口ではないので。

橋本 公安委員会は、制度上は警察を管理するという位置づけで、警察改革の際、「公安委員会が第三者機関として監督点検する機関だから、外部の監査は不要」という意見もあった。

藏本 確かに、警察の組織図では、公安委員会が県警を管理する立場にあり、形式上組織上重要な位置づけとされている。

橋本 県公安委員会が「大綱方針」に基づいて県警全体を管理するとされているので、まず、「大綱方針を見せて下さい」と言った。ところが、「ありません」との回答。警察管理の根本原則となるべき指針である大綱方針が無い、というのはおかしい。さらに質問していくと、「公安委員会定例会での各委員の意見、規則等の総体が大綱方針で、それを具体化したものが警察本部長名義の『運営重点』であり、この『運営重点』に基づいて管理している」、ということであった。しかし、管理される側の本部長名で出されたもので管理するのはおかしい。そこで、公安委員会自らの名で大綱方針を策定し、それに基づく管理を行うべきとの「意見」を出した。だが、県警の「措置」は、全く噛み合っていない。

藏本 国家公安委員会のホームページでも「大綱方針を定め」と明記されているが、県警では明文としての大綱方針がなく、雲をつかむような話になっている。ちなみに県公安委員会は委員5名で構成され、現委員長は民間企業(ハイヤー会社)社長、委員は元県副知事、元副市長、元校長、信金理事長。県警の組織上のトップである県公安委員会の構成も県民として知っておいてもよいかと思う。

 捜査費

橋本 県の会計は振込みが原則だが、捜査費は現金経理が認められており特殊な支出だ。警察費をテーマにした過去の監査でも、捜査費は、外部の者が入れないアンタッチャブルな領域という扱いがあった。しかし、私は、最初から、「捜査費もやります。向かい合って下さい。捜査費を対象から外したら、『だから神奈川県警は』と言われますよ。」と説得した。結果的に、向き合ってもらったと思う。生資料も出してもらった。現場の捜査員から話を聞く際には、県警本部の職員には退席してもらった。領収証がないものがいくつかあったが、それらについては、領収証がない理由について、なるほどと思える内容がきちんと記載されていた。

ただ、現金経理は不正の温床となりやすく、現に茨城県・広島県では領収証の偽造による不正が起きている。ダブルチェック、トリプルチェックができるような方策をという意見を出した。藏本 捜査費の執行額は概ね年間9000万円余り、約半分の4000〜5000万が県警本部分で、残りが各警察署。

複数の県警にまたがる犯罪捜査では、どこが負担するのかという調整も出てくる。 領収書の管理や、現金の取扱い等の出納業務は、 必要最小限は行われていた。

 交通安全協会

藏本 交通安全協会は、監査チーム内部で最も議論した分野だった。私は、警察費の一部としてでなく、交通安全協会だけを一つのテーマとして取り上げるくらいでないと、という意見だった。

橋本 交通安全協会は、県警に非常に近い団体が特別の立場で優遇されているのではないかという問題意識で取り上げた。地区交通安全協会の多くは警察署内に置かれている。行政財産の目的外使用は要件が定められているが、交通安全協会は要件をみたしているといえるのか。運転免許証用の写真撮影は、パスポート申請のように外で撮影するのでもよいはずで、警察署内で撮影して、安全協会が収益をあげるというシステムにしておく必要があるのか、安全協会会費は目的が明確化されていればよいが何だかわからないまま警察署内で徴収業務を行うというのはおかしいのではないか、免許証の郵送業務は民間事業者でもできるのだから他の事業者も参入できるようにすべきではないか、等々、普通の市民感覚でおかしいと思うところは指摘した。

安全協会は約360人の職員の約6割が警察OBで、収益活動のうち6割以上が県からの委託料等で、他の県に依存している収入を合わせると9割になる。依存してはダメとはいわないが、きちんとしておく必要がある。指摘事項のうち、地区安全協会が警察署を無償使用(使用料全額免除)していることにつき、免除額を半額とする、という限度で改善措置がなされた。

藏本 交通安全協会の事業の一つに、例えば運転免許証の郵送を1000円で行っているが、300円程度の実費を除いた残りは利益となっており、これは収益事業である。ただ、事業を独占していること自体がおかしいとか、入札にかけるべきだとか、そこまで指摘することが妥当かどうか。私は県警の主張にも一理あり、そこまでの指摘は・・と思ったのだが。たとえば郵送料金は、県内はどこでも一律でないとおかしいだろうが、入札で業者が各警察署毎に決まるということになると、料金も違ってくる可能性があるなど現実的対応はなかなか難しいと思う。

橋本 確かに、様々な意見があるところだ。「指摘事項」の考え方が絶対ということではなく、今後の議論のたたき台にしてもらえばと思う。

 警察学校と科学捜査研究所

橋本 この問題は非常におかしいと思う。警察学校の施設校舎は、法律上国庫で支弁することになっている。が、老朽化が進み建替えが必要な状態だが本建築を行う費用が国からおりてこない。しばらくの間使う簡易校舎を県費で建てている。県費で支弁する法的根拠を示してください、と言ったが無い。必要だから、というだけで支出がされている。科学捜査研究所で使用する機器のリース料も同様だ。すべての行政行為は法律に基づいて行われるべきで、必要性だけでは説明にならない。これは神奈川県だけでなく全国的な問題だろう。

藏本 警察費の監査で障害となったのが書類の保存期間だ。県警は基本的に3年で、それ以前の資料が出てこない。監査は、5年とか10年という期間の記録を並べてみないと説得力のある分析ができない。今後の深刻な課題だと思う。ただ、基本的には、資料自体は、すぐ(数日程度で)出てくるし、黒塗りされていない。

少し監査の話から逸れるが、私は行政の諮問委員、総合評価落札方式の選定委員等もつとめてきた。なんとか委員会というのは、選任された委員、特に委員長の立ち位置によって結論が誘導される傾向が強い。選定手続に関する行政の免罪符に利用されているように感じる部分もある。そういうことへの監視も必要だ。

Counter: 244212