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愛媛県人事委員会採決に思う -否定できない全体像のゆがみ-

最終更新時間:2006年06月23日 18時45分34秒

愛媛県人事委員会採決に思う

ー否定できない全体像のゆがみー

仙波さんを支える会世話人

東  玲治


ご承知の通り、仙波さんの不服申し立てに対し、愛媛県人事委員会(委員長、稲瀬道和弁護士)は6月7日、配転は違法、不当な処分で、これを取り消すという裁決を公表、仙波さんは配転前の鉄道警察隊に復帰、JR松山駅で勤務を始めた。

仙波さんは昨年1月20日に現職警察官でありながら、県警で長年、組織的な裏ガネ作りが行なわれ、幹部が私腹を肥やしてきたことを記者会見して告発した。仙波さんはその日のうちに拳銃を取り上げられ1週間後には鉄道警察隊から同じ地域課に属する通信指令室に配転を命じられた。このため、この2つの処分は告発に対する報復であり、他への見せしめだとして人事委に不服を申し立てた。

人事委の裁決(全文別掲)は、任命権者の裁量権を幅広組みとめる傾向に歯止めをかけた昭和61年の最高裁判例「公務員の身分、俸給、勤務場所、勤務内容などで不利益がなくても、他に特段の事情がある場合には、処分取り消しの余地がある」を基に、配転により、身分俸給などには不利益が認められないが、勤務内容については「著しく少なく、本来公務員が分担するに相応しい内容を備えていない」などとし、軟禁に等しいという仙波さん側の主張を全面的に認め、これは不利益処分に当たるとした。

裁決はさらに、最高裁判決が示した≪特段の事情≫についても言及し、配転後にポストが新設されるなど、配転は恣意的で県警の言う「行政目的上の必要性も認めがたい」と指摘、配転を発令した直属上司・地域課長の任命権の乱用に当たるという判断を示した。また裁決は、社会通念上許されるかどうかについても判断し、「配転は告発会見との間に強い関連性があり、告発内容に問題があって何らかの処分が行なわれたならともかく、それは全く問題にされていない」と事実上報復的な人事とみなし、「(告発会見は)公益を図る目的に出たものであることを公言していることに鑑み、少なくとも会見したこと自体により不利益を与えることの無いよう慎重な配慮が求められるところ、そのような配慮がなされることなく処分が行なわれ」社会通念に照らして著しく妥当性を欠くとした。

これらのことから配転は「任命権者の裁量権の範囲を逸脱した違法、不当な処分」に当たるとして、取り消すべきものと判断している。

裁決は、拳銃の取り上げについては処分には当たらないとしながら、「自傷他害の恐れがある」という県警の主張には認められないとした。拳銃は取り上げから2ヵ月後に返還されており、裁決の直接的な効果はないが、仙波さんに「不適格警察官」の烙印を押し、告発内容の信憑性を傷つけようとした県警の意図は打ち砕かれ、仙波さんの名誉回復が図られたことの意義は大きい。

裁決はまさに社会通念のかなったものといえ、高い評価を受けている。

しかし、問題がないわけではない。

最大の問題は、配転などの責任をひとりの課長に転嫁したことだ。仙波さんの告発は、愛媛県警のみならず、全・警察組織を揺るがせるものであった。その仙波さんの処遇に最高責任者で野心的な県警本部長が無関心、無関係であるはずはない。誰が見てもそれは明らかだ。仙波さん側は、本部長の関与を立証するために証人申請したが、人事委はこれを認めず、審理を打ち切っている。

その結果、裁決は任命権者は本部長であり、地域課長はその一部について委任されていることを認めながら、「本部長が配転を行ったという外形的事実は認められない」の一言で片付け、配転辞令の交付者が地域課長であることを理由に、課長に責任を押し付けた。これは法律家(人事委員長は弁護士)特有のロジックで、常識にはかなっていない。関与を疑わせる事実はいくらでもあった。証人申請却下は政治的配慮といわれても仕方があるまい。

もっとも、仮に本部長の関与が明らかになったとしても「配転取り消し」以上の裁決はないわけで、結果は同じことになった。それだけに、配慮の入り込む余地があったともいえるのだ。

裁決の結果は正しい。しかし、全体像のゆがみはいかんともしがたい。数学と一緒で、途中の計算は間違っていたけれども答えはあっていたということではないか。

それはそれとして、この裁決は重要な指摘を随所でしてもいる。

仙波さんの行動の正当性を認めたこと、県警が簡単に過ちを犯し、それを自らは是正できない体質を持っていること、そういう県警のウソだらけの内部調査を鵜呑みにして、知事も議会も、監査委員も公安委員も告発から1年5ヶ月の間、裏ガネ問題の解明を怠ってきたことなどである。不正の抑止力さえ発揮できず、仙波さんの孤立を放置してきた。人事委員会も彼らも、同じ自治法上の存在であるから、裁決は重く、十分に尊重されねばならない。誰が、何をなすべきかを、裁決は求めているともいえるのだ。

(写真は、JRの雑踏の中に立つ仙波さん)

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