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2005.3.9 情報公開審査会

最終更新時間:2005年03月12日 19時26分10秒

2005年3月9日に、ジャーナリストの寺澤有さんが申してた非開示に対する不服申したてに関して、原田宏二代表が陳述を頼まれ意見陳述を行いました。内容は以下です。

意見陳述書

2005年3月9日

情報公開審査会御中

平成16年(行情)諮問第442号

明るい警察を実現する全国ネットワーク    

代表   原 田 宏 二


私は、平成7年2月 北海道警察(以下道警という)を退職しました。在職中は、捜査の現場であるいは署長などの所属長として、直接間接にいわゆる裏金に関与してきました。平成15年11月、かって署長を務めたことのある旭川中央警察署の会計書類が流出し、不正経理が行われているのではないかと問題になりました。

私は、警察内部で長年にわたり続いていた裏金システムは最早続けるべきではないと判断し、自らの体験を公表しました。その結果、平成16年11月にいたり、道警は長年にわたり多くの部署で不正経理が行われていたことを認め、9億1600万円を返還したと伝えられています。この調査結果は、後に発表された北海道監査委員の監査結果と大きく食い違っておりますが、それはさておき、本日は道警の裏金の実態についてご説明し、主として「公共の安全に関する情報」について意見を申し上げます。

 1 北海道警察の裏金の実態

私の体験では、捜査費等(捜査費および捜査用報償費、以下同じ)や旅費は全て裏金化され、その所属のナンバー2の副署長などが裏帳簿で管理していました。裏金化は、協力者等が作成すべき領収書を偽造し、虚偽の支出書類を作成することにより現金を捻出、そのほとんどが、幹部の交際費、餞別、部内の飲食などに使われていました。このことは、先に発表された道警の「捜査用報償費等特別監査結果報告」で裏金システムがほぼ全ての部署で長年にわたり存在していたことを認めたことで明らかになりました。その中では平成10〜12年度までの捜査用報償費は、その99.1%が裏金化されていたとしています。捜査費では62.4%であるとしています。また、裏金疑惑が発覚した旭川中央警察署、弟子屈警察署、北見方面本部警備課の協力者が架空であったり、支払いの事実がなかったりしていたことが明らかになっています。同じような事実は、多くの現場の警察官等が証言しています。このように、道警においては私が在職中に体験した裏金システムがごく最近まで同じようなやり方で続けられていたことが明らかになりました。

 2 捜査費等の運用の実態

捜査費は国費、捜査用報償費は都道府県費です。捜査費の本来の使途は、警察庁長官官房会計課発行の平成16年度版「捜査費経理の手引き」によれば、「犯罪の捜査等に従事する職員の活動のための諸経費及び捜査等に関する情報提供者、協力者等に対する諸経費」となっています。これで明らかなように、捜査費等は捜査に従事する現場の警察官が使う経費です。現場の警察官がこうした経費を有効に使用するためには、経費の支給対象者は誰か、その金額の基準はどうかなどの内部規定が存在しなくてはなりません。そしてその判断は現場の警察官の責任において行われるべきものです。しかしながら、私の在職中はそうした内部規定は存在しませんでした。その上それぞれの所属に配分される予算額は署長などに知らされることなく、会計担当者の独断で予算が執行されていました。裏金化の作業は会計担当者が行い、現場の警察官は領収書の偽造や虚偽の会計書類を作成に関与するだけで、正規の手続きで捜査費等を受け取り、協力者等に交付することはありませんでした。このことは、現場の警察官から事情を聞くことにより直ちに判明するでしょう。今後は訴訟などで現場の警察官が証人として真実を話す機会が増えると思っています。

 3 協力者の実態

協力者とはいったいどのような者を指すのか。抽象的には、「犯罪の捜査に直接間接に協力した者」ということでしょうが、それではあまりにも抽象的です。例えば、犯罪の被害者は協力者なのか、犯罪の目撃者は含まれるのか、事件の参考人はどうか、など疑問がありますが、こうしたことを明らかにした内部規定はありませんでした。

協力者で典型的なケースは、S(いわゆるスパイ)です。確かにある種の組織犯罪、例えば、暴力団事件、麻薬覚せい剤事件、拳銃不法所持事件、汚職事件などの捜査、あるいは警備公安警察の情報収集活動や協力者の獲得作業などには協力者は欠かせません。しかしながら、こうした特殊な仕事は警察組織のごく一部が担当しているだけです。したがってSを運用しているのは警察のごく一部の部署に過ぎません。

私は、2箇所の警察署長を経験していますが、将来発生するであろう犯罪や長期間の内偵捜査が必要な犯罪の捜査に協力者が必要であることは認識しながらも、現場の警察官は日常発生する事件の処理に追われて協力者の獲得や運用に取り組む余裕はありませんでした。また、協力者の獲得運用といった仕事は、人間関係の醸成など特殊な技術が求められます。こうしたことから現場の警察官がこうした作業に取り組むことは極めて困難でした。加えて、警察内部には、金の話はタブーといった根強い風潮があります。また、日本人には、警察に協力するのは善良な国民の当然の義務だとする考えも根強いものがあります。こうしたことから、熱意のある現場の警察官は、手土産程度ではありますが自腹を切って協力者の獲得、運用に当たっていました。

警察における協力者の獲得や運用の経費は、正規の予算執行の手続きで行われてはいません。ごくまれに、協力者に謝礼が支払われたとしても、それは裏金の中からでありその金額も適当に決められていました。

ついでに、旅費のことにも触れておきます。警察の予算で最大のものは、旅費(国費、都道府県費)です。私の体験では、旅費も全て裏金化されていました。職員が公用で旅行する時には旅行命令簿が作成することになっていましたが、私はこれを作成したことも決済したこともありません。

こうした捜査費等の杜撰な運用が行われていた事実は、平成10年度では、捜査費等の執行率は99.9%であったものが、年々その予算額が減少しているにもかかわらず、情報公開の流れや全国のオンブズマン活動といった国民の監視が強まるにつれ、平成13年度から急激に低下したことでも裏づけられます。

 4 捜査上の秘密について

捜査では秘密が保たれなければならないのは、刑事訴訟法や警察の犯罪捜査の内部規定である犯罪捜査規範の定を待つまでもなく当然です。昨今、行政機関による公金使用の透明性を求める国民の声が強まる中で、捜査費等や旅費の情報公開請求に対して、捜査上の秘密を理由に不開示の決定が数多く出されていると聞いています。

私は、これは「公共の安全」という法益と「公金使用の透明性」という法益のバランスの問題ではないかと思っております。どちらが絶対的なものではありません。しかしながら、これまでの警察における捜査費等や旅費の執行は極めて違法性の強いものでありました。不開示は、捜査上の秘密というよりもむしろ警察部内の不正行為を隠蔽するための主張であると理解しなければなりません。架空の協力者を保護すべきだとの主張は論外ですが、一歩譲っても、情報開示による捜査への影響や協力者保護の必要性には自ずから濃淡があります。中には、マスコミに公開されている協力者もいるのが実情です。すでに事件が解決して相当の期間を経過して秘密を保持する理由のない事件もあります。全てを不開示にすることは明らかに行き過ぎです。多少手数が掛かっても公金という捜査費等や旅費の情報開示請求に対しては、きめ細かく分別して公開できるものはすべきではないかと思います。捜査の秘密といった大網を掛けて全て情報を開示拒否するのは不当だと私は思います。警察が信頼を失っている現在ではなおさらでしょう。

警察の裏金問題は、道警だけの問題ではありません。全国各地の警察で発覚しています。これはとりも直さず、警察という組織が国民の信頼を失っているからに他なりません。警察が捜査上の秘密を盾に情報公開を拒否すればするほど警察は信頼を失います。

警察が国民の信頼を回復することが全ての前提です。警察は、過去の過ちを率直に認め、国民と共にある警察を具現するため、もっと情報を公開するべきだと思っています。

 5 おわりに

平成12年に開かれた警察刷新会議の緊急提言で、警察の閉鎖性、国民の批判や意見を受け入れにくい体質や、「時代の変化」への対応能力の不足が指摘されました。しかしながら、私は今回の内部告白の体験を通じて、それらが依然として何一つ変わっていないことを知りました。部内の不正を隠蔽するためには手段を選ばない組織防衛最優先の論理、そのために自殺者まで出しているのです。

こうしたことを少しでも改革するため、昨年「警察を明るくする全国ネットワーク」を設立しました。その後、警察の裏金問題について群馬県警の警察官OB、愛媛県警の現職警察官が内部告発を行いました。私どもは、警察パッシングに終始したり、いたずらに内部告発を勧めているのではありません。内部告発者を不当な圧力から守り、現場の警察官が誇りを持って仕事ができるような明るい職場環境を作るため弁護士の方々と連携して支援活動を行っているのです。

時代は確実に変わりつつあります。警察もこうした変化に対応できなければ国民の信頼を失うばかりです。委員の方々におかれましても、こうした観点から審査に特段のご配慮をいただきますようお願いし、私の陳述を終わります。          

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