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警察が犯罪(者)をねつ造し,検察がお墨付きを与える!

最終更新時間:2013年04月17日 17時25分25秒

警察が犯罪(者)をねつ造し,検察がお墨付きを与える!【職務質問+軽犯罪法違反+起訴猶予=犯罪者】の現実

 実は日本はりっぱな安心安全国家

 日本では凶悪犯罪(殺人,放火,強姦殺人など)は,敗戦から間もない1950年頃をピークに,その後,減少の一途を辿っている。世界的にもきわめて犯罪が少ない安心安全国家を実現している。その最大の原因は,経済成長と経済的安定であって,警察組織が徹底的に犯罪者を摘発したからではない。犯罪が激減しているのなら,警察官は少なくなっていいし,警察予算も少なくなっていいはずだ。

しかし,現実は真逆になっている。日本では警察予算は増え,警察官は増え,警察官僚の天下りは広がり続けている。警察関係者が生活のあらゆる場面にいてくれた方が安心だから?

「体感治安」という用語は,実によくできている。ひとりひとりが何となく感じる不安だから,あることも,ないことも,だれにも証明できない。何をしてもなくなることはない。犯罪のあまりの減少ぶりに困った警察官僚が,それでも警察組織を拡大したい,警察利権を拡大したいという動機と熱意から発案した画期的な造語だ。

 軽犯罪法,迷惑防止条例など,世界を眺めれば,どこの国も犯罪にしていないような行為を犯罪にし,「え,こんなことが犯罪なの!?」と本人が驚いている間に,一方的にああだこうだと手続を進めて,犯罪者に仕立て上げ,検挙軒数を上げている。警察が犯罪者を創る。皮肉なことに,一般の人々はそれを正義の実現だと思い込んでいる。

 現場の警察官たちはそのばかばかしさを知っている。しかし,摘発ノルマは上(頂点は警察庁国家公安委員会)からの絶対命令。拒否すれば職場にとどまれない。仕事を失う。現場の警察官の力で状況を変えることはできない。

困ったことに,検察組織も,警察の逸脱行為をチェックしない。警察に犯罪者扱いされた一般市民の弁解を聞くことなく,「起訴猶予」(犯罪は成立するが起訴しない)。起訴猶予になった人々は,自分が犯罪者の烙印を押されていることを知らない。しかし,犯罪統計の数字ではしっかり犯罪者になっている。

 以下では,警視庁万世橋署/違法捜査・軽犯罪法1条2号違反ねつ造事件(東京地方裁判所平成23年(ワ)第29379号)の最終準備書面の一部を基に,職質ノルマの実態を紹介する。

 警察は摘発される者の失うものが大きいことを考えるべき

犯罪は日々定量的に生産される工業製品ではない。国家が何を犯罪とするかによっても犯罪発生件数は著しく異なるし,犯罪を犯す者にしても同じ者が毎日,毎月,毎年,同じ場所で同じ犯罪を繰り返しているわけではないから,犯罪発生件数を正確に予測することはできないし,現場の警察官(巡査,巡査部長,警部補)が毎日,毎月,毎年,ほぼ同数の犯罪者を摘発することもできない。

ところが,個々の警察官の現場での働きぶりを直接見ているわけではない官僚が,現場の警察官の人事を管理する上で各自の働きぶりを査定する方法は,数値に客観化された「実績」によっている。この実績こそが犯罪検挙件数である。

警察庁が毎年の摘発目標件数を設定すれば,それは警視庁,道府県警察に摘発目標件数は配分され,その先では警察署ごとに配分され,各警察署において各警察官に対して摘発目標件数の実現が求められる。個々の警察官が相互に実績を争うことは,犯罪検挙件数を挙げることを競い合うことを意味する。警察組織内部の効率的な人事管理という観点からすればとても合理的だ。

しかし,摘発される一般市民の側は溜まったものではない。「こいつなら犯罪者にできそうだ」と狙いをつけられた一般市民は,身に覚えのないことや,犯罪の自覚が全くないことで,突然,身柄を拘束されたり財産を奪われたり,ふつうの市民生活では生涯起こり得ないような,衝撃的な体験を強いられる。生活や人生が激変してしまうこともある。その究極は誤判による死刑執行であるが,そこまでではないにしても,起訴さえされなくても,数週間,数日,数時間の異常な“身体拘束”状態の体験をきっかけに,周囲から犯罪者としてみられるようになって人間関係が悪化したり,職を失ったりという不利益を被ることもある。被害が家族に及ぶこともある。違法な職務質問に続いて数時間,身柄を拘束される事案では,数時間後に解放されるだけに,他人にはその数時間の恐怖や屈辱がわかりにくく,だれにも相談できずに一人で悩み続ける人もいる。

 職質ノルマ

(1) 警視庁警察官が津波の被災地で行った「職質」

東日本大震災の津波の被災地で瓦礫撤去のボランティア活動をしていた市民に対して,警視庁から派遣されていた警察官が,都内で行っているのと同じ感覚で,「職務質問」(職務質問を定義している警職法2条1項の要件など充たしていない!)を行い,十徳ナイフを持っていたことに着目して銃刀法違反で摘発しようとした。「いつまた起こるかわからない災害に備え,乾パンや財布などと一緒にバッグに入れて持ち歩いていた」と説明しても聞き入れない。後日,男性が警視庁に質問書を出すと,警視庁は「この度の登庁警察官の取扱いは,適正に行われたものです。」「職務質問は,法令に基づいて適正に行っています。」と回答した。

津波被災地で瓦礫撤去のボランティア活動をしていた男性に対する警視庁警察官の対応,犯罪としての摘発は正しかったのだろうか。警視庁ではこれを当然としている。しかし,宮城県警は男性や弁護人に「警視庁警察官の対応を適法だった」と説明したものの,「改めて男性を取り調べることはしない」「事件として送検しない」「十徳ナイフは返還する」と告げた。宮城県警が犯罪扱いすれば,宮城県内ではそのこと自体が大ニュースになり,県民から警察批判が噴出したにちがいない。そのことがわかっているからこそ,宮城県警は送検どころか取調べを続けることさえ止めたのである。取調べのとき,仙台南署の警察官が男性に「運が悪かったと思って,あきらめて」と言ったのは,宮城県警では犯罪扱いしないことを,職質ノルマに熱心な警視庁の警察官が事件として持ち込んできてしまったため,宮城県警としては無視できない,事件として処理せざるを得ないという意味だったのだろう。警視庁警察官の普段どおりの行動が,宮城県では警察批判の大事件になるところだったのである。

(2)警察の暴走を後押しする検察

 ごくふつうの市民生活を送って来た者がある日突然,警察官に犯罪者扱いされ,数時間に解放されるということが,「職質」による軽犯罪法1条2号違反事件ではよくある。日常的に行っている警察官側にとっては何のショックもないが,それまで自分が犯罪を犯しているとは思っていなかった本人にとっては,事実上身柄を拘束された数時間だけが屈辱的な時間なのではなく,その後も「自分は犯罪者なのか」と悩み続けることになる。

 警察にとって軽犯罪法1条2号違反はノルマ稼ぎだから,被疑者にされてしまった人の心情など全く考慮することなく,書類の体裁を整えて,さっさと検察庁に事件として送致する。

 検察庁でも,突然犯罪者扱いされた者の苦悩など一切考えず,本人の言い分を直接聴こうともせず,ろくに記録も読まず,さっさと「起訴猶予」処理で済ませる。起訴猶予は犯罪が成立することが前提だから,あっと言う間に犯罪者がひとり誕生する。

 犯罪者扱いされた者の沈黙と,検察庁の「起訴猶予」という表(公判)に出ない処理のお陰で,問題は顕在化せず,警察官は着々と職質ノルマを挙げることができる。

 まじめな市民生活を送って来た一般市民の犠牲の下に,警察の実績を示す警察官のノルマは達成されているのである。

(3)「警察の「点数」制度」

広中俊雄・東北大学名誉教授が著書『警察の法社会学』(創文社)に書いている「警察の「点数」制度」(264頁以下)は,ノルマについて詳述したものである。

そこでは,「警察の「点数」制度が問題とされなければならない理由」として,第一に,「警察官の間でさえ肯定されているように,この制度は,警察官による人権侵害(それらのほとんどすべては犯罪捜査に関連するものである)を導く一つの原因となっている,ということが注意されるべきであろう」としている。

そして,広中は,「点数」制度は,どのような実際の運用をとおして,個々の警察官の行動を方向づけ,「士気を昂揚」しているのであろうか,と問題提起し,「重要と思われるもの」について説明している。

「月間順位,年間順位というふうな評定順位の決定が個々の巡査ごとにおこなわれ,且つ,評定結果は,口達・閲覧・印刷配布などの方法によって被評定者に「周知」せしめられる(従来は「公表」されていた)。そして,このことによって成績をあげようという意欲はいっそう奮いたたされる。」

成績の良否はよい地位の獲得に影響する(警察官を評価する用具は「点数」制度のみではないが,しかし,これが圧倒的に重要なものであることはいうまでもない)。成績が悪いと,たとえば,本庁へ栄転したり内勤(特に「警察のホープ的存在」たる捜査係)にまわしてもらったりすることができなくて,「万年警邏」をかこたなければならないことになるとか(なお捜査係にいて成績がよくなかったりするとよく警邏にまわされる),あるいは,昇任試験の際に大きくものをいう平素の勤務成績(署長の具申)が悪いということになる結果,学科試験を何度がんばっても巡査から巡査部長にあがることができないとかいうことになるのである。(略)。

成績優秀者は,種々の形で定期的にその労を報いられる。たとえば,一定期間ごとに,「訓授場」などに全員が集められ,成績優秀者(5位までとか10位までとか)が皆の前で表彰されるというような形は,最も一般的である。この場合,賞状・「金一封」・記念品などが与えられることも多いが,重要なのは,表彰されるということ自体のもたらす「名誉」である。(略)。

成績優秀者が「賞揚」される一方,考慮すべき理由なくして二ヶ月以上実績がきわめて低調であった者については「特別の監視指導を実施する」ことになっている。その者の範囲は,たとえば,署の総平均点を基準として内容の記載される「勤務特別指導状況表」がつくられる。指導方法としては,たとえば同行警邏と称されるものがあり,「監督者」が当人の警邏に同行して勤務状況を観察し,強制すべき点を発見する(そして,たとえば「一緒に歩いた間,一度も職務質問をしなかった」というふうなことが指摘される)等々の方法がとられる。」

警職法2条1項の要件を充たす者に出会わなければ,職務質問をしないのが当然である。しかし,「監督者」,すなわち,警察組織において監督者として相応しいと評価されている立場の者は,「一緒に歩いた間,一度も職務質問をしなかった」ことが問題だと感じているのである。

この論文は1950年代に書かれたものであるが,警察の実態はその後も今日に至るまで変わらない。

(4)実績評価書

だれが現場の警察官にノルマを強いているのか。答えは,国家公安委員会警察庁が毎年作成している実績評価書に書いてある。

  • ?平成18年8月実績評価書

 平成18年8月実績評価書をみると,「実績評価を実施する場合は,警察行政における主要な目標(基本目標)を設定し,当該基本目標を実現するための個別の政策が目指す具体的目標(業績目標)を選択し,業績目標ごとに設定した業績指標を1年以上の一定期間測定することにより,業績目標の実現状況を評価することとされている。」とした上で,「基本目標1 生活の安全と平穏を確保する」の「業績目標4 地域住民に身近な犯罪の予防・検挙活動の推進」では,「評価期間」を5年として,「業績指標」では,「2 地域警察官の職務質問による刑法犯検挙件数を継続的に測定する。」としている。

「業績指標」とは,言い換えれば,ノルマである。「地域警察官の職務質問」による「刑法犯検挙件数」に着目し,これを「継続的に測定する」としているのであるから,職務質問がノルマとなり,検挙件数を挙げることがノルマになっているのである。

  • ?平成19年7月実績評価書

平成19年7月実績評価書では,「基本目標 市民生活の安全と平穏の確保」「業績目標 地域警察官による街頭活動の推進」の「業績目標の説明」で,「・・・地域に密着した活動を行っている地域警察官の街頭活動を強化する。」として,「業績指標?」で,「達成目標:地域警察官の職務質問による刑法犯及び特別法犯検挙件数を前年よりも増加させる。」「基準年:17年 達成年:18年」「目標設定の考え方及び根拠:地域警察官の職務質問による刑法犯及び特別法犯検挙件数の増加が,地域警察官の街頭活動の強化の一つの指標となるため」としている。そして,「(効果の把握の手法)」で「各業績指標について,基準年に対する達成年の状況を測定する。」とし,「(結果)」の「実績指標? 地域警察官の職務質問による刑法犯及び特別法犯検挙件数」では,「地域警察官の職務質問による刑法犯及び特別法犯検挙件数は,増加傾向にあり,18年中は19万5,096件(刑法犯検挙件数15万6,189件,特別法犯検挙件数3万8,907件)と,17年に比べ5,699件(3.0%)増加した。」「業績指標?については,地域警察官の職務質問による刑法犯及び特別法犯検挙件数が前年よりも増加しており,目標を達成した。」としている。「指標」に「地域警察官の職務質問」による「特別法犯検挙件数」が掲げられている。これが現場の警察官にとってノルマとなる。特別法犯には軽犯罪法違反も含まれる。「達成目標」は「地域警察官の職務質問」による「特別法犯検挙件数を前年よりも増加させる。」とあるから,これがノルマとなる。

  • ?平成20年7月「平成19年実績評価書」

「平成19年実績評価書」では,「業績目標 地域警察官による街頭活動の更なる推進」,「業績目標の説明」では「・・・地域に密着した活動を行っている地域警察官の街頭活動を更に推進する。」,「業績指標?」で「達成目標:刑法犯及び特別法犯の総検挙人員に占める地域警察官による検挙人員の割合について,過去5年間並の高水準を維持する。」「基準年:14〜18年 達成年:19年」「目標設定の考え方及び根拠:刑法犯及び特別法犯の総検挙人員に占める地域警察官による検挙件数の割合は,地域警察官による街頭活動の推進の度合いを測る一つの指標となるため」とし,「(結果)」の「実績指標? 刑法犯及び特別法犯の総検挙件人員に占める地域警察官による検挙人員の割合」では,「増加傾向にあり,19年中は45万2,116人のうち37万5,533人(83.1%)と,18年に比べ0.2ポイント向上した。」「業績指標?については,刑法犯及び特別法犯の検挙件人員に占める地域警察官による検挙人員の割合が過去5年間並の高水準を維持しており,目標を達成した。」まるで車の販売実績の評価かなにかのように錯覚しそうな内容である。ノルマ処理の過程で深刻な人権侵害が起こっているかもしれないという配慮は一切ない。ノルマを達成していることを,警察庁及び国家公安委員会が積極的に評価している。 平成18年までは「地域警察官の職務質問による」という表現がなされていたが,平成19年からは「地域警察官による」という表現に変わっている。実態は変わらないと考えられる。

  • ?平成21年7月「平成20年実績評価書」

「平成20年実績評価書」では,「業績目標の説明」で「地域警察官による街頭活動の強化を図る。」とし,「業績指標?」で「達成目標:刑法犯及び特別法犯の総検挙人員に占める地域警察官による検挙人員の割合について,過去5年間並の高水準を維持する。」「基準年:15〜19年 達成年:20年」「目標設定の考え方及び根拠:刑法犯及び特別法犯の総検挙人員に占める地域警察官による検挙件数の割合は,地域警察官による街頭活動の推進の度合いを測る一つの指標となるため」とし,「(結果)」の「実績指標? 刑法犯及び特別法犯の総検挙件数に占める地域警察官による検挙人員の割合」では,「42万346人のうち34万8,647人(82.9%)で,19年に比べ0.2ポイント低下した。」「業績指標?については,20年中は19年に比べ若干低下したが,刑法犯及び特別法犯の検挙件人員に占める地域警察官による検挙人員の割合について過去5年間並の高水準を維持するという目標を達成した。」職務質問の文言は,「業績目標達成のために行った施策」の3番目に「職務質問技能指導者等の指定及び育成」についての記述がある。

  • ?平成22年7月「平成21年実績評価書」

「平成21年実績評価書」では,「業績目標」で「地域警察官による街頭活動の強化」を掲げ,「業績指標?」で「達成目標:刑法犯及び特別法犯の総検挙人員に占める地域警察官による検挙人員の割合について,過去5年間並の高水準を維持する。」「基準年:16〜20年 達成年:21年度」「目標設定の考え方及び根拠:刑法犯及び特別法犯の総検挙人員に占める地域警察官による検挙件数の割合は,地域警察官による街頭活動の強化の度合いを測る一つの指標となるため」とし,「(結果)」の「実績指標? 刑法犯及び特別法犯の総検挙人員に占める地域警察官による検挙人員の割合」では,「41万6,444人のうち34万5,389人(82.9%)で,20年度と同じであった。」として,「地域警察官による検挙人員の割合について過去5年間並の高水準を維持するという目標を達成した。」としている。

  • ?平成23年7月「平成22年実績評価書」

「平成22年実績評価書」では,「業績指標?」の内容は,基準年及び達成年が1年ずれるだけで,他は平成21年と同じ内容である。「(結果)」の「実績指標?」では「21年度と同じであった。」としている。

この文書が,ノルマ達成を強く意識していることは,文面から明らかだ。これは警察庁が勝手に作ったものではない。国民の代表が構成員となって,警察全体を監視する立場にある国家公安委員会警察庁と連名で作成している文書である。国民の代表者たちと警察組織の最高峰の人たちが現場の警察官にノルマ達成を求めている。現場の警察官たちがノルマ達成のために暴走するのは当然である。

(5)警視庁が設定する活動指標

 警視庁本部は,毎年,各警察署ごとに,職務質問をきっかけとする検挙件数を活動指標(ノルマ)として設定し,通知している。現場の警察官はこのノルマに達し超えることで評価される。

 犯罪の認知件数の推移

(1)全体状況/大幅な減少傾向

 平成23年の警察白書によれば,平成13年から平成22年までの主な街頭犯罪の認知件数は総数としては1,664,309件から729,407件と半数以下に大幅に減少している。その中で,ナイフなどの凶器を犯行の手段として利用している可能性のある犯罪についてみると,路上強盗:2,509件→1,221件,強姦:806件→349件,強制わいせつ:5,786件→4,245件,略取誘拐:179件→121件,傷害:19,400件→12,602件,恐喝:13,856件→2,836件といずれも大幅に減少している。侵入強盗の認知件数は平成15年(2,865件)をピークに2,335件から1,680件に大幅に減少している。

(2)警視庁における軽犯罪法違反検挙人数に占める1条2号違反の割合

警視庁の統計資料によると,軽犯罪法違反全送致人数と2号事案(凶器携帯)による送致人数は,

  • 平成14年:4,809人/1,488人(31%)
  • 平成15年:5,316人/2,421人(45.5%)
  • 平成16年:8,501人/5,648人(66.4%)
  • 平成17年:7,327人/4,849人(66.2%)
  • 平成18年:9,815人/7,421人(75.6%)
  • 平成19年:9,615人/7,685人(79.9%)
  • 平成20年:7,446人/5,986人(80.4%)
  • 平成21年:7,020人/5,912人(84.2%)
  • 平成22年:3,949人/2,908人(73.6%)
  • 平成23年:1,664人/  641人(38.5%)

である。平成14年,15年,16年と急増し,平成17年に減少するが,平成18年,19年は平成16年以上に増加し,平成20年,21年は総数では平成17年並みだが,2号事案は平成16年以上の人数になっており,平成22年の2号事案は突然,前年の半分以下の人数になり,総数も2号事案が減少した分だけ少なくなる。平成23年になると更に激減し,軽犯罪法違反検挙件数全体が平成14年以降のデータとしては最も少ない平成14年と比較して約3分の1という異常な減少ぶりを示し,2号事案に至っては,平成18,19年に比べると10分の1以下,前年比でも約5分の1に激減している。

なお,我が国で初めて職務質問に関する全国一斉電話相談を原告代理人らが実施したのが平成22年6月であった。

(3)万世橋署の場合

 秋葉原地域を管轄する万世橋署における軽犯罪法1条2号違反の摘発件数の推移は以下のとおりである。

  • 平成14年: 15件( 15人)
  • 平成15年: 16件( 15人)
  • 平成16年: 39件( 31人)
  • 平成17年:120件(110人)
  • 平成18年:259件(253人)
  • 平成19年:299件(287人)
  • 平成20年:282件(278人)
  • 平成21年:129件(128人)
  • 平成22年:297件(296人)
  • 平成23年: 28件( 27人)

 秋葉原地域での軽犯罪法1条2号違反の摘発の増加はいわゆる秋葉原通り魔事件(平成20年6月)がきっかけになっていると,現場の警察官は説明する。そのため,そう思い込んでいる人が多い。

しかし,実際はちがう。急増は平成17年から始まっているから,秋葉原通り魔事件は契機になっていない。秋葉原地域に摘発しやすそうな一人歩きの粗暴そうでない男性が集まって来ることに目を付けた現場の警察官らが,秋葉原通り魔事件以前から職質摘発の草刈り場にしていたのである。

(4)犯罪都市?東京/東京地・区検の異常に高い受理件数

 法務省では,毎年,都道府県警察ごとに,罪名別被疑事件の通常受理件人数を公表している。軽犯罪法違反被疑事件(1号〜20号,22号〜34号)について,全国の警察が送検する人数と警視庁が送検した人数を比較すると,以下のとおりである。 

  • 平成18年:14,820人/9,794人(66.1%)
  • 平成19年:16,198人/9,110人(56.2%)
  • 平成20年:15,612人/7,265人(46.5%)
  • 平成21年:26,396人/6,879人(26.1%)
  • 平成22年:13,799人/3,875人(28.1%)
  • 平成23年:10,968人/1,606人(14.6%)

 東京都の人口は全国の人口の約10分の1である。平成18年の軽犯罪法違反被疑者の通常受理人数は,全国全体の66%だった。「犯罪都市東京」がふさわしい状況だった。以後,徐々に減少し,平成23年には14.6%まで激減した。

(5)東京地・区検の異常に高い起訴猶予率

通常受理した軽犯罪法違反事件について,検察庁はどのような処理をしているか。軽犯罪法違反被疑事件に関する東京地検の通常受理件数と起訴猶予件数(起訴猶予率)は以下のとおりである。

  • 平成18年:9,794人/9,210人(94%)
  • 平成19年:9,110人,8,809人(96.7%)
  • 平成20年:7,265人/7,175人(98.8%)
  • 平成21年:6,879人/6,792人(98.7%)
  • 平成22年:3,875人/3,836人(99%)
  • 平成23年:1,606人/1,558人(97%)

他の犯罪類型にはない異常に高い起訴猶予率である上に,もともと高い起訴猶予率がさらに高まっている。各号ごとの統計は公表されていないが,平成18年でみると75.6%が2号事案であり,以後,平成19年が79.9%,平成20年が80.4%,平成21年が84.2%,平成22年が73.6%を2号事案が占めていることからすると,2号事案の処理状況を反映していることは疑う余地がない。平成22年から平成23年の送致人数の減少は,2号違反事件の減少数をほぼそのまま反映している。2号違反事件が激減しても起訴猶予率は極めて高い。警視庁が検察庁に送致する軽犯罪法違反事件全体について起訴猶予率が極めた高いということが言える。

検察庁において各事件について慎重な検討をして決裁を下しているとすれば,2号事件の送検は検察官の仕事時間の中で占める割合を著しく高めてしまっている。そのことは,他の重要案件にかける時間を削られてしまっていることを意味する。

しかし,検察官が,極めて軽微な事件だから時間をかける必要はないと考えて,まともに記録に目を通さず,被疑者の言い分を聞こうとせず,「起訴しないのだから文句はないだろう」と安易に処理しているとすれば問題だ。

全国の通常受理件数と起訴猶予件数(起訴猶予率)は以下のとおりである。

  • 平成18年:14,820人/12,512人(84.4%)
  • 平成19年:16,198人/14,047人(86.7%)
  • 平成20年:15,612人/13,864人(88.8%)
  • 平成21年:16,396人/14,511人(88.5%)
  • 平成22年:13,799人/11,959人(86.7%)
  • 平成23年:10,968人/ 9,233人(84.2%)

これと比較すると,どの年をみても,東京地検の起訴猶予率が全国の起訴猶予率より常に遙かに高い。これは,東京地検の判断が被疑者に寛大なのだという見方もできなくはないが,警視庁が,起訴に値しない,あるいは起訴できるはずのない軽犯罪法違反被疑事件を,日常的に大量に送検しているという推測も成り立つ。

東京地検は,警視庁の犯罪者づくりに,「起訴猶予」のお墨付きを与えている。警察官の暴走を抑制する機能は全く果たしていない。

さらに,全国について,特別法犯全体(刑法犯以外)の通常受理人員と起訴猶予件数(起訴猶予率)をみると,以下のとおりである。

  • 平成18年:117,935人/37,239人(31.6%)
  • 平成19年:119,813人/40,827人(34.1%)
  • 平成20年:110,360人/40,967人(37.1%)
  • 平成21年:111,719人/42,603人(38.1%)
  • 平成22年:104,832人/39,170人(37.4%)
  • 平成23年: 96,779人/35,423人(36.6%)

 軽犯罪法違反事件の起訴猶予率が全体の起訴猶予率から掛け離れて著しく高いことがわかる。警視庁が検察庁に送る事件はこれをさらに上回る異常な高さの起訴猶予率になっている。

(6)激減の原因

平成21年3月26日に軽犯罪法違反被告事件について最高裁で無罪判決が出ているが,平成20年とほぼ同数の検挙件数であることからすると,この判決は軽犯罪法1条2号違反の摘発実務に影響を与えていないと考えられる。

他方,警察ネットでは,これまで弁護士会や弁護士有志が取り組んだことのなかった,現職警察官及び一般市民を対象とする電話相談(『任意捜査における指紋採取・顔写真撮影に関する電話相談』)を平成22年5月に実施した。相談時間帯に途切れることがないほど,職務質問の異常ぶりに関する電話が現職警察官からも一般市民からも殺到した。悪質な事案については,関係警察署に質問書を送ったり,責任者と話し合ったりすることもするようになった。繰り返し回答を求めても,ほとんどの警察署が回答して来なかったが,それでも問いかけ続けた。警察官僚は,摘発の現場の出鱈目ぶりに驚いたかもしれない。

平成22年12月には,職務質問,軽犯罪法1条2号違反の摘発の実情を正面から問う初めての訴訟(平成22年(ワ)47820号)を東京地裁に提起した。翌平成23年9月にも,同種事案の2件目の訴訟(平成23年(ワ)第29379号)として本件を東京地裁に提起し,現在に至っている。平成24年11月26日,1つ目の訴訟の判決は原告の全面敗訴となり,現在,東京高裁に控訴中(平成24年(ネ)第8050号)である。これらの訴訟の被告側の主張と被告側証人の証言により,現場の警察官らの軽犯罪法1条2号違反の摘発状況の杜撰さが明らかになった。法廷で証言した警察官,それを傍聴していた警察官は,自分たちの意識が原告(一般市民)の意識と乖離していることに気づいたはずだ。警察ネットは更に,平成23年9月,平成24年12月にも一斉電話相談を行っている。

このように個々の事案について警視庁に問い続けたことが一定の影響を与えていると考えられる。

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